第1章 業務分析と自動化設計
学習目標
- 業務の流れを段階に分け、段階ごとに入力・出力・担当者・完了条件を書く。
- 反復性・リスク・チェックコストで自動化候補を比較する。ただし、除外条件を先に適用する。
- ルールで処理する段階と、AIの判断が必要な段階を区別する。
- 取り消しにくい行動、他の人の目に触れる行動、個人にとって重大な決定の前に、人によるチェックポイントを置く。
- 最も単純な委任レベルから始め、根拠に応じて範囲を広げる設計書を書く。
はじめに
ある会社の総務チーム長が「AIで協力会社の管理業務を自動化せよ」と指示されたとします。総務チーム長はすぐに、どのツールを導入すべきか調べ始めます。数週間後にツールは導入されましたが、誰も使いません。協力会社の管理が実際にどのような段階で構成されていて、どこが繰り返され、どこにリスクがあり、誰が何を確認すべきかを、誰も書き出したことがなかったからです。ツールは「協力会社の管理」という業務の塊を丸ごと引き受けることはできません。引き受けられるのは、「協力会社から届いたメールから事業者情報と担当者の連絡先を抽出して、登録フォームに移す」といった具体的な仕事1つです。逆方向の失敗もよくあります。意欲的な担当者が、登録書類の確認から取引開始の通知まで一度に任せようとして、最初の週に書類がそろっていない会社へ通知が出てしまう場合です。2つの失敗の原因は同じです。どの段階をどこまで任せるかを決めずに始めてしまった点にあります。
この章では、ツールではなく業務を出発点に自動化を考える方法を扱います。まず業務を段階に分け、段階ごとに入力と出力を書きます。次に、反復性・リスク・チェックコストの3つの基準で、どの段階から任せるかを決めます。その後、人が必ず確認すべきポイントを決め、最も単純な委任レベルから出発し、根拠を積み重ねて範囲を広げる方法を学びます。最後に、これらすべての決定を1枚の設計書に残します。この設計書は、第2章から第5章まで使い続けます。
重要な概念
業務を段階に分ける
料理人は料理を始める前に、材料の下ごしらえをして順番に並べておきます。自動化も同じです。業務を段階に分け、段階ごとに5つの項目を書きます。
| 書くこと | 意味 | 例:見積もり依頼の処理 |
|---|---|---|
| 入力 | この段階が受け取るもの | 顧客のメール、添付図面 |
| 処理 | この段階で行うこと | 品目・数量・納期の抽出 |
| 出力 | 次の段階に渡すもの | 見積もり依頼の要約表 |
| 担当者 | 現在この仕事をしている人 | 営業支援担当 |
| 完了条件 | 終了したと認める基準 | 品目・数量・納期の3つの欄がすべて埋まっている |
完了条件は必ず書いてください。「要約する」では終わりがわかりませんが、「3つの欄がすべて埋まる」なら確認できます。AIに任せた段階の結果をチェックするときも、この完了条件がそのままチェック基準になります。ある段階の出力が次の段階の入力になるので、前の段階で抜けた情報が後でどのような問題を起こすかも、表を見ると明らかになります。
開始条件、完了条件、引き継ぎ
業務は何らかの出来事をきっかけに始まります。メールが届く、月末になる、申請書が提出される、といったことです。これを開始条件といいます。開始条件を書くと、その業務をスケジュールされたタスクとして実行するのか、メールの到着などのイベントに反応させるのか、人がその都度指示するのかが決まります。
段階表を作るときは、担当者が変わるポイント、つまり引き継ぎを必ず示してください。多くの業務で時間を取るのは、仕事を処理する時間(処理時間)ではなく、次の人が着手するまで待つ時間(待ち時間)です。見積書の作成に20分かかっても、承認待ちで2日止まれば、顧客は2日待ちます。この場合、AIで作成時間を10分に減らしても、顧客の実感はほとんど変わりません。処理時間と待ち時間を別々に書いておけば、AIで減らせる時間と減らせない時間を区別できます。
通常の経路と例外の経路
平均的な事例にだけ合わせた自動化は、現場でよく止まります。段階表には、通常の経路(大半の案件が通る道筋)と例外の経路(情報が抜けている、資料同士が矛盾する、期限を過ぎている案件が通る道筋)の両方を記載します。
- 通常の経路から外れる事例を、過去の記録から集めます。
- 事例を種類ごとにまとめ、種類ごとに頻度と影響を書きます。
- 種類ごとに処理方法を決めます。不足情報の補完を依頼するのか、人に引き継ぐのか、保留するのかを決めます。
- AIが例外に気づくためのサインを書きます。例:必須欄が空欄、金額が基準を超える、「緊急」などの表現。
例外を人に引き継ぐ基準が明確なほど、自動化は長く使えます。例外を無理に自動処理しようとすると、通常の経路まで複雑になります。
3つの基準:反復性・リスク・チェックコスト
段階ごとに3つの基準で評価すると、自動化の順序が決まります。
| 基準 | 問うこと | 自動化に有利な方向 |
|---|---|---|
| 反復性 | どれくらい頻繁に、どれくらい似た形で繰り返されるか | 高いほど |
| リスク | 間違えたときにどれくらい有害で、取り消しにくいか | 低いほど |
| チェックコスト | 人が結果を確認するのにどれくらい時間がかかるか | 低いほど |
ただし、3つの点数をそのまま足してはいけません。反復性の点数が非常に高いと、大きなリスクが隠れてしまうからです。順序は次のとおりです。
- 除外条件を先に適用します。 人の検討なしで個人の権利に影響する決定や、承認されていないアカウントに機密資料を入れる必要がある仕事は、点数にかかわらず自動処理の対象から外します。
- 残った候補だけを比較します。 1日に数十回繰り返され、間違えても簡単に直せ、確認が1分で終わる仕事が最初の候補です。
- チェックコストを元の作業時間と比較します。 人が確認するのに元の作業と同じくらい時間がかかるなら、自動化しても減る時間はほとんどありません。
四半期に1回しか行わない仕事では、設計やテストに投じた工数を回収しにくいことも覚えておいてください。
リスクを分けて考える
「リスク」という1つの欄だけでは、判断が大まかになります。同じ誤りでも、内部の下書きなら直せば済みますが、顧客に出てしまうと回収できません。リスクを3つに分けて見ると、より正確になります。
| 要素 | 問うこと | 低い場合 | 高い場合 |
|---|---|---|---|
| 影響範囲 | 誤りの影響が誰に届くか | 作成者本人 | 顧客、外部機関、多数の従業員 |
| 取り消しにくさ | 取り消し・修正・回収がどれくらい難しいか | 下書きの修正 | 送金、送信、削除 |
| 発見までの時間 | いつ誤りに気づくか | すぐ次の段階 | 数週間後の苦情発生時 |
3つの要素がすべて低い段階は自動実行の候補になり、1つでも高ければ人の承認や厳しいチェックが必要です。米国国立標準技術研究所(NIST)のAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)のように、組織がAIのリスクを体系的に扱うための自主的な指針もあるので、会社として基準を作る際に参考にできます。
ルールで処理する仕事とAIの判断が必要な仕事
すべての段階に生成AIが必要なわけではありません。決まった式で計算する仕事や、「金額が50万ウォンを超えたら承認者を追加する」といった分岐は、スプレッドシートの数式、メールフィルタ、業務システムのルールで処理するほうが正確で、説明もしやすくなります。生成AIは、同じ入力でも表現が少しずつ変わることがある、確率的なツールだからです。
| 性質 | 例 | 適切な処理 |
|---|---|---|
| 決まった条件による分類 | 送信元ドメイン別のフォルダ移動 | フィルタ・ルール |
| 文脈の解釈が必要な分類 | 顧客のメールが苦情か問い合わせか | AI |
| 正確な計算 | 手当、税額、割引額 | 数式・業務システム |
| 自由な形式の整理 | 会議の文字起こしから決定事項を抽出 | AI |
| 両者の組み合わせ | AIがメールから金額を抽出し、数式が検算 | AI + ルール |
よい設計は両方を組み合わせます。AIが非定型のテキストを所定の欄に移した後は、計算と分岐をルールが担当します。ルールがAIの結果を検証する関門になれば、誤りが次の段階へ広がる前に取り除けます。
委任レベルのはしご
「自動化する」という言葉は範囲が広すぎます。AIに任せる度合いを4段階に分けると、範囲を具体的に決められます。
| 段 | AIがすること | 人がすること | 次の段に進む根拠 |
|---|---|---|---|
| 1. 整理・推薦 | 資料を集め、要点を整理 | 判断と作成の両方 | 整理結果をそのまま使う割合が基準以上 |
| 2. 検討用の下書き | 成果物の下書きを作成 | 修正し、自分で実行 | 修正なしで採用した割合が基準以上 |
| 3. 承認後に実行 | 実行まで準備 | 内容を見て承認 | 承認時の修正・却下の割合が十分に低い |
| 4. 限定的な自動実行 | 決められた条件内で自ら実行 | サンプルチェックと例外処理 | サンプルの誤り率が基準以下を維持 |
Anthropicは、AIシステムを作るときはできるだけ単純な解決策を探し、必要なときだけ複雑さを増やすよう勧めています。はしごも下の段から始めます。最初から4段目を狙うと、失敗したときに指示が問題なのか、資料なのか、実行の接続なのかを見分けにくくなります。次へ進む根拠は開始前に数字で決めておくことで、後から「うまくいっている気がする」という感覚で進むことを防げます。
人によるチェックポイントはどこに置くか
人による確認はすべての段階ではなく、影響の大きいポイントに置きます。Anthropicは確認が必要な行動の例として、破壊的な作業(削除など)、取り消しにくい作業、他の人の目に触れる作業(メッセージの送信、共有システムの変更)を挙げています。業務の自動化では、ここにもう1つ加えます。
- 破壊的な行動:ファイル・記録の削除、データの上書き。
- 取り消しにくい行動:送金、返金の実行、注文の確定。
- 他の人の目に触れる行動:顧客へのメール送信、公開投稿、取引先との共有。
- 個人にとって重大な決定:採用、信用、保険のように、人の権利と機会に影響する決定。
ここでは承認と確認を区別してください。承認は「この行動をしてよい」という許可で、確認は「内容が正しいか」を検証することです。ボタンを押して承認したからといって、内容を確認したことにはなりません。確認まで行うには承認画面に何を示すべきかは、第3章で扱います。
注意
すべての段階に承認を置くと安全に見えますが、実際には逆効果です。承認依頼が多すぎると、人は内容を見ずにボタンを押すだけになります。これを承認疲れといいます。承認は本当に必要なところに絞って置いてこそ、本当の確認になります。
チェックできる作業量を設計する
承認ボタンを置くことと、人が実際にチェックできることは別の問題です。チェックポイントを決めたら、次の計算と準備をします。
- 1件のチェック時間と1日の処理件数:たとえば1日200件、1件のチェックが2分なら、1日400分、約6.7時間が必要です。チェック担当者1人が、他の仕事と並行して対応できる量かを検討します。
- チェック担当者に渡す根拠:原文全体を読み直させず、AIに結果とともに主要な数値・根拠の位置・不確かな部分を個別に示させます。
- 不在時の代替経路:チェック担当者が休暇のときは誰が見るのか、誰もいなければ実行を止めるのかを決めます。
- チェック待ちの間の動作:チェックを待つ間に結果が自動で外に出ないようにします。
計算の結果、人が対応できないなら、チェックポイントをなくすのではなく、自動化の対象をチェック可能な件数に絞るか、リスクの低い段階だけをサンプルチェックにして、リスクの高い段階にチェック時間を集中させます。
業務上の要求を機能の組み合わせに置き換える
段階表が完成したら、段階ごとに必要な機能の形態を選びます。製品名よりも先に形態で考えれば、ツールが変わっても設計を生かせます。
| 業務上の要求 | 適切な形態 | 扱う章 |
|---|---|---|
| チームが同じ資料を繰り返し参照しながら共同で作業する | ナレッジスペース(プロジェクト) | 第2章 |
| 多くの人が同じ手順で同じ質問への回答を得る | カスタムアシスタント | 第2章 |
| メール・ドライブ・業務システムの最新情報を取得、記録する | コネクタ・アプリ連携 | 第3章 |
| 複数の段階を自ら計画し、アプリとウェブを行き来して処理する | エージェント機能 | 第3章 |
| 決まった時間や出来事に合わせて繰り返し実行する | スケジュールされたタスク | 第3章 |
1つの業務で複数の形態を組み合わせるのが一般的です。ただし、形態が1つ増えるたびに、接続権限、共有範囲、チェックポイントも増えることを覚えておいてください。不要な形態を外すことも設計です。
自動化すべきでないもの
OpenAIの利用ポリシーは、雇用、金融・信用、保険、住宅、教育、法律、医療のような機微な領域で、人の検討なしに重要な決定を自動化することを禁止しています。Anthropicの利用ポリシーも、こうした高リスク領域で個人に影響する助言や決定には、資格を持つ人による検討を求め、モデルの出力を個人に直接示す場合は、AIを使ったことを知らせるよう求めています。会社が承認していない個人アカウントに顧客や応募者の情報を入れなければ実現できない自動化も、自動化以前にデータの境界の違反です。
こうした仕事に永久に手をつけてはいけないという意味ではありません。「現在の条件では任せにくい理由」を書き、条件を変える方法を探します。決定は人が行い、AIには資料整理だけを任せる、会社のワークスペースを用意した後に一部の段階だけを自動化する、といった方法です。
1枚の自動化設計書
ここまでの決定は、1枚の設計書に残します。担当者が替わっても、目的と境界を理解できる必要があります。
[自動化設計書]
業務名 / 責任者 / 作成日
1. 目的:何をどれくらい減らすか(ベースラインの数値を含む)
2. 開始条件と入力
3. 段階表:段階ごとの入力・処理・出力・担当者・完了条件
4. 委任レベル:段階ごとのはしごの段
5. 使用する資料と許可するツール(接続するシステム、許可する動作)
6. 人によるチェックポイント:位置、確認項目、担当者、不在時の対応
7. 対象から外す業務とその理由
8. 停止条件:何が見つかったら自動実行を止めるか
9. 成功基準:次の段へ進むための数字
さらに深く
ワークフローか、エージェントか
AnthropicはAIシステムを2種類に分けています。ワークフローは、事前に決めた経路に従ってAIとツールが動くシステムで、エージェントは、AIが自ら手順とツールの利用を決めるシステムです。エージェントのような複雑な構成は、通常、遅延とコストの増加と引き換えに性能を得るため、単純な方法では足りないときだけ使うよう勧めています。また、段階が明確に分かれる仕事には、プロンプトをつなぎ、途中にチェックの関門を置くワークフローが適すると説明しています。
ノーコードの業務自動化に当てはめると、判断基準は次のようになります。段階数と順序があらかじめわかるなら、ワークフローとして設計します。たとえば「メール分類 → 情報照会 → 返信の下書き」のように順序が固定されていれば、各段階を別々に実行し、途中の結果を確認するほうが誤りを見つけやすくなります。一方、何段階必要かが事前にわからない調査や探索には、エージェントのほうが適しています。ただし、エージェントは段階を経るごとに誤りが積み重なることがあるため、停止条件と人が介入するチェックポイントも一緒に設計する必要があります。
採点表の落とし穴
反復性・リスク・チェックコストを1〜5点で採点して合算する表は、チームの会議では説得力があります。しかし、3つの落とし穴があります。
- 相殺効果:反復性の5点がリスクの5点を相殺し、危険な段階が上位に来ます。除外条件で先に絞る理由です。
- 評価者によるばらつき:同じ段階を2人が評価すると点数が異なります。点数ごとに「3点は1日10〜30件」のような基準を書いておくと、ばらつきが減ります。
- 段階ではなく業務単位での評価:「顧客対応」全体に点数をつけると、分類(低リスク)と補償の支払い(高リスク)が混ざって平均化されます。点数は必ず段階単位でつけます。
採点表は決定の代わりにはなりません。話し合いを整理する道具として使い、最終判断と理由は設計書に文章で残します。
形だけのチェック
人によるチェックポイントを置いても、誤りがそのまま通過することがあります。チェック担当者が、AIの結果はほぼ正しいと経験を重ねると、次第に注意深く見なくなり、やがてはんこを押すだけになります。こうした形式的な承認を、本書では「形だけのチェック」と呼びます。原因と対策は次のとおりです。
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 何を確認すべきか決まっていない | 段階の完了条件をチェックリストにする |
| 根拠を探すのに時間がかかる | AIに結果とともに根拠の位置を示させる |
| チェック量が多すぎる | 低リスクの段階はサンプルチェックにし、高リスクの段階に時間を集中させる |
| 誤りを見つけても評価されない | 担当者が見つけた誤りを記録し、改善に反映した事例を共有する |
定期的に、意図的に誤りを入れた成果物を混ぜ、チェック担当者が見抜けるかを確かめる方法もあります。チェックは、人がいるという事実ではなく、誤りを見つける能力で評価すべきです。
実務の場面
ヘソル施設管理:修理依頼の受付整理
オフィスビル12棟を管理する「ヘソル施設管理」の管理室は、1日に約150件の修理依頼を受け付けています。依頼は入居企業の担当者から、メール、ビジネスチャット、電話のメモなど、さまざまな形で寄せられます。管理室のト主任は、依頼を整理して現場の技術者に割り当てる仕事の自動化を任されました。
ト主任は、まず業務を5つの段階に分けました。①依頼の受付、②場所・症状・緊急度の整理、③担当技術者の割り当て、④入居企業への受付返信、⑤対応完了の記録です。段階ごとに処理時間と待ち時間を測ると、②が1件4分と最も長く、③は管理室長が午前中にまとめて割り当てるため、平均2時間の待ち時間がありました。
3つの基準を適用する前に、除外条件を確認しました。ガスの臭い、漏電、エレベーターへの閉じ込めなど、安全に関わる依頼には、電話連絡を受けて即時に出動する別の手順がすでに定められていました。ト主任は、こうした種類を自動化の範囲から外し、AIがこのような表現を見つけたら整理を止め、管理室の電話に知らせる例外の経路だけを置くことにしました。
残った段階のうち②は、繰り返しが多く、間違えても技術者が現場で直せ、チェックは30秒で終わりました。最初の候補に選びました。③の割り当ては、技術者ごとの熟練度と移動距離を考える判断なので、当面は人が行い、AIが整理した表を見て決めることにしました。④の返信は入居企業の目に触れる行動なので、2段目(検討用の下書き)から始めました。
チームの1人は「技術者へのメッセージ送信まで自動化すれば、2時間の待ち時間がなくなる」と提案しました。ト主任は、その提案をすぐには採用しませんでした。待ち時間の原因は、割り当ての判断が午前中に集中していることにあり、メッセージを自動送信しても割り当てが遅ければ待ち時間は変わらないからです。代わりに、管理室長が午前と午後の2回割り当てる手順への変更案も一緒に提出しました。
場所が抜けた依頼は、AIが入居企業に補完を依頼する文面を作り、主任が確認してから送ることにしました。成功基準は「整理表を修正なしで使った割合80%以上、誤った割り当ては週2件以下」としました。設計書の最後には、「安全に関わる表現の見落としが1件でも出たら、自動整理を停止して原因を調べる」という停止条件を書きました。
ことばの屋根裏:投稿原稿の一次検討
人文書の出版社「ことばの屋根裏」の編集部には、月に200本近い原稿の投稿が届きます。編集者3人が投稿メールを開いて原稿に目を通し、出版検討の対象にするかを決め、断りの返信を送っています。ソ編集長は「AIが原稿を読んで断るものを選び、返信まで送ってくれるとよい」と言いました。
担当のノ編集者は業務を分けながら、この依頼が3つの異なる仕事をまとめていることに気づきました。原稿の分野・分量・構成を整理する仕事、出版検討の対象かを判断する仕事、投稿者に返信する仕事です。1つ目は繰り返しが多く、間違えても編集者がすぐに直せました。2つ目は出版社の見識が問われる判断で、3つ目は外部の目に触れる行動でした。
ノ編集者は3案を比較しました。(ア)AIが判断と返信まですべて行う案、(イ)AIは整理と推薦だけを行い、編集者が判断・返信する案、(ウ)AIが整理・推薦をし、編集者が判断したらAIが返信の下書きを書く案です。(ア)は、断りの返信が誤って送られると取り消せず、一度断った著者との関係を回復するのは難しいため退けました。(イ)は安全ですが、返信を書く時間がそのまま残りました。
(ウ)を選びました。AIは原稿ごとに、分野、想定分量、目次構成、出版社の企画方針に合う点と合わない点を1ページに整理し、「検討を推薦」または「保留を推薦」を根拠とともに示します。編集者が判断するとAIが返信の下書きを書き、編集者が読んで送ります。原稿は投稿者の著作物なので、会社が契約した業務用ワークスペースでのみ処理することにしました。
チェック量も計算しました。月200本、整理表の確認が1本3分なら月10時間です。3人で分担すれば十分でした。開始前のベースラインとして、先月の投稿処理にかかった時間(編集者合計で約70時間)と、投稿から返信までの平均日数(19日)を記録しました。2か月後、処理時間は約40時間に減り、編集者の手が空いたことで未読の投稿の滞留が減り、返信までの平均も8日に短縮しました。ノ編集者の報告書の最初の一文は、「AIは原稿を判断しない。判断に必要な整理をする」でした。
間違えやすいポイント
- 「重要な仕事から自動化したほうが効果が大きい」 重要な仕事は、誤りの影響も大きくなります。最初の対象は、繰り返しが多く、リスクが低く、チェックしやすい仕事です。
- 「3つの基準の点数を合算すれば優先順位が出る」 合算すると、反復性がリスクを隠します。除外条件を先に適用し、残った候補を比較します。
- 「計算もAIに任せれば一度で終わる」 決まった式のある計算は、数式や業務システムのほうが正確です。AIは非定型の入力の整理に使います。
- 「たくさん確認するほど安全だ」 すべての段階での承認は承認疲れを生み、形だけの確認に終わります。影響の大きいポイントに集中します。
- 「承認ボタンがあればチェックできる」 承認と内容の確認は異なります。担当者が根拠を見て確認できる時間と資料が必要です。
- 「試行時の正確度が高ければ承認を外してよい」 正確度が高くても、取り消せない誤りは1件だけでも大きな被害になります。委任レベルは、正確度と取り消しにくさの両方を見て決めます。
- 「まずツールを選ばないと設計できない」 段階表と成功基準が先にあってこそ、ツールを比べる基準が生まれます。
ひと目でわかるまとめ
| 質問 | 覚えておく答え |
|---|---|
| 何から始めるか | 業務を段階に分け、入力・出力・担当者・完了条件を書く |
| どこで時間を失うか | 処理時間と待ち時間を別々に測る |
| 何から任せるか | 除外条件で絞った後、反復性が高く、リスクが低く、チェックしやすい段階 |
| リスクをどう見るか | 影響範囲、取り消しにくさ、発見までの時間 |
| ルールかAIか | 決まった条件・計算はルール、文脈の解釈・自由な形式はAI。組み合わせて相互に検証 |
| どこまで任せるか | 整理・推薦 → 下書き → 承認後に実行 → 限定的な自動実行。数字の根拠で1段ずつ |
| 人はどこに置くか | 破壊的・取り消しにくい・他の人の目に触れる行動、個人にとって重大な決定 |
| チェックは可能か | 1件の時間 × 1日の件数、根拠の表示、不在時の対応、待機中の実行禁止 |
| 成果物 | 1枚の自動化設計書 |
公式ドキュメントで確認する
- Anthropic — Building effective agents:ワークフローとエージェントの違い、最も単純な解決策から始める原則を読みます。
- Anthropic — Prompting best practices:「Balancing autonomy and safety」の節で、確認が必要な行動の例を確かめます。
- Anthropic — Define success criteria and build evaluations:成功基準を具体的で測定可能なものにする方法を読みます。
- OpenAI — Usage policies:人による検討なしで、機微な領域の重要な決定を自動化することを禁止する項目を確かめます。
- Anthropic — Usage Policy:高リスクの利用事例で求められる、人による検討とAI利用の告知を読みます。
- NIST — AI Risk Management Framework:組織のAIリスク管理のための自主的なフレームワークと、生成AIのプロファイルを確かめます。
セルフチェック
1-1. リスクを1つの点数で評価せず、3つの要素に分けて見ると説明しました。その3つを書き、それぞれ高い場合の例を1つずつ挙げてください。
1-2. 段階表に処理時間と待ち時間を別々に書くべき理由を説明してください。AIで減らせるのはどちらかも示してください。
1-3. 社内の郵便物受付業務で、「封筒に書かれた部署名で分類する」と「同封の手紙が抗議か単なる問い合わせかを見分ける」のうち、ルールで処理する段階とAIに任せる段階を選び、理由を書いてください。
1-4. 承認と確認はどのように違うかを示してください。承認だけがあり、確認がない状態が危険な理由を1〜2文で書いてください。
1-5. あるチームが、1日90件の成果物を人にチェックしてもらう計画を立てています。1件のチェックに4分かかり、担当者は1日3時間しか使えません。この計画の問題を計算で示し、チェック方法や自動化の範囲をどう調整するか、1つ提案してください。
1-6. 次の業務上の要求を、この章の機能の形態(ナレッジスペース、カスタムアシスタント、コネクタ、エージェント、スケジュールされたタスク)に置き換えてください。「毎週月曜の朝に、チームの共有ドライブから先週の会議録を集め、決定事項だけを整理してチーム長に見せる。」
1-7. 1枚の自動化設計書に必須の項目のうち、担当者が替わったときに特に重要なものを2つ選び、理由を書いてください。
実習課題
実習
自分のチームの業務段階表を作る(50分)
- チームで毎週繰り返される業務を1つ選ぶ。
- 業務を4〜7段階に分け、段階ごとに入力・処理・出力・担当者・完了条件を表に書く。
- 過去2週間の記録から、段階ごとの処理時間と待ち時間を概算で書く。
- 通常の経路から外れた事例を3つ以上探し、例外の経路と処理方法を書く。
- 除外条件を先に適用した後、残った段階ごとに反復性・リスク(影響範囲・取り消しにくさ・発見までの時間)・チェックコストを高・中・低で評価する。
完了基準: すべての段階に5つの欄と処理時間・待ち時間があり、例外の経路が3つ以上あり、除外した段階には理由が書かれていれば完了とする。
実習
1枚の自動化設計書を書く(40分)
- 前の実習の段階表から、最初に自動化する段階を1つ選ぶ。
- その段階の委任レベルをはしごから選び、次の段に進む根拠を数字で書く。
- 人によるチェックポイントの位置、確認項目、担当者、不在時の対応を書き、1日のチェック時間を計算する。
- 停止条件を2つ以上書く。
- 設計書を同僚1人に見せ、説明なしでは理解できなかった部分を直す。
完了基準: 設計書の9項目がすべて埋まり、1日のチェック時間の計算と数字による成功基準があり、同僚の確認後に直した内容が1行以上記録されていれば完了とする。