この教本の使い方

本書の対象読者

本書は、AIの成果物の品質に責任を持つ人のための教材です。毎週同じ形式のレポートをモデルで作る企画担当、大量のブランドコピーを整えるマーケター、長い資料から根拠を抜き出す研究者、チームで使うプロンプトテンプレートの管理者、APIで機能を実装する直前の段階で設計を担う実務者を対象としています。共通するのは、「一度だけうまくできた結果」ではなく、「毎回同じような品質で得られる結果」を作る必要がある点です。

プロンプト・コンテキストエンジニア(PCE)は黄帯の課程です。白帯(AIリテラシー)レベルの基礎力と、生成AIを3か月以上実務で使った経験を前提とします。コードを知らなくても読めるように書きましたが、API名やパラメータが出てくる箇所では、概念を先に説明してから公式ドキュメントの正確な表記を添えています。開発者でない方も、開発者と同じ言葉で設計上の判断を話し合えるようにするためです。モデルの学習やインフラ構築は扱いません。

本書を最後まで読み、実習を終えたら、次の5つができるようになる必要があります。

  1. 作業の目標・制約・成功基準を明示した指示文を設計する。
  2. 例、構造化タグ、出力形式で結果の一貫性を高める。
  3. 長い文書・会話・ツールの結果をコンテキスト予算の範囲内で配置する。
  4. 評価基準とテストセットでプロンプトの変更を検証する。
  5. 指示の抜け、形式の崩れ、過度な一般化などの失敗パターンを診断して直す。

本書の構成

本文は、試験領域と同じ順序の5章構成です。第1章は指示文、第2章は例と形式、第3章は指示文以外の資料、第4章は1回の呼び出しで終わらないタスク、第5章は変更によって本当に改善したかを確かめる方法を扱います。各章を個別に読めますが、第1章の成功基準が第5章のルーブリックにつながるように、互いに参照しています。

すべての章は、同じ10の節で構成されています。

節 内容
学習目標 章を終えた後にできるようになること
はじめに この章が必要な理由を示す短い話
重要な概念 試験範囲の知識と技能を一つずつ説明
さらに深く トレードオフ、例外、失敗の分析
実務の場面 架空の組織が問題を解いていく過程
間違えやすいポイント もっともらしいが誤った考え
ひと目でわかるまとめ 章全体の要約表
公式ドキュメントで確認する 原文を読む場所
セルフチェック 6〜8問の確認問題
実習課題 30〜60分の実習を2つ

付録Aは用語集、付録Bはセルフチェックの解答と解説、付録Cは試験当日のガイド、付録Dは本書で引用した公式ドキュメントの一覧です。

試験の概要

項目 昇級審査 無料練習セット
問題数 30問 10問
制限時間 45分 20分
合格基準 素点70点以上 なし

出題比率は次のとおりです。

章 領域 比率
第1章 指示文の設計 25%
第2章 例と構造化 20%
第3章 コンテキストエンジニアリング 25%
第4章 推論と多段階タスク 15%
第5章 評価と改善 15%

問題は5つの形式で出題されます。すべて問題単位で採点するため、一部だけ正解しても得点にはなりません。

形式 設問の構成 採点
単一選択 4〜5の選択肢から正解を1つ 正解を選ぶと得点
複数選択 5〜6の選択肢から2〜3つ 正解をすべて選び、誤答を1つも選ばなければ得点
正誤判定 判断と理由が書かれた3〜4の記述にそれぞれYes/No 判断と理由がともに正しい場合のみYesとし、全記述に正解すれば得点
並べ替え 4〜5の手順を順番に並べる 全体の順序が正しければ得点
組み合わせ 左の項目と右の選択肢を対応させる すべての組が正しければ得点。選択肢が1つ余る場合がある

問題はこのような形です

すべての問題は、架空の会社やチームが直面する具体的な状況から始まります。状況説明の後に問いが1つ続き、見落としてはならない条件は太字で示されます。たとえば「指示の出し方だけを変えて」という条件が付いていれば、後処理やモデルの変更のように指示の外にある解決策は、効果が高くても正解にはなりません。「遅延を増やさずに」とあれば、品質だけを高める重い解決策は除外されます。問題の半分以上は、このように2つ以上の条件を比べて判断する問題です。太字の条件が1つ変われば正解も変わるように設計されているため、キーワードを暗記するよりも「なぜこの条件ではこの選択なのか」を説明できることが大切です。

誤答の選択肢は無造作に作った文ではなく、実務でよく見かける誤解を1つずつ含んでいます。強調すれば守ってくれるという思い込み、コンテキストウィンドウが大きければ何でも入れてよいという考え、同じ答えが繰り返されれば事実だという錯覚、平均点が上がれば改善だという判断などです。各章の「間違えやすいポイント」は、これらの誤解を集めたものです。誤答の理由を説明できれば、同じ系統の新しい問題も解けます。練習セット終了後の復習画面では、選択肢ごとの解説と根拠となるドキュメントを確認できるので、正解した問題も解説を読み、判断の根拠を点検してください。

6週間の学習計画

1日40分、週5日を想定しています。実習はチャット画面とスプレッドシートだけでできます。APIを使える場合は、同じ実習をAPIでも繰り返すことを勧めます。

週 読む範囲 実習 確認
第1週 使い方、第1章の重要な概念 第1章の実習課題1 第1章セルフチェック1〜4
第2週 第1章の残り、第2章 第1章の実習課題2、第2章の実習課題1 第1章セルフチェックの残り、無料練習セット1回
第3週 第2章の残り、第3章の前半 第2章の実習課題2、第3章の実習課題1 第2章セルフチェック
第4週 第3章の残り 第3章の実習課題2 第3章セルフチェック
第5週 第4章、第5章の前半 第4章の実習課題2つ 第4章セルフチェック、無料練習セット2回目
第6週 第5章、付録、全体の復習 第5章の実習課題2つ 第5章セルフチェック、付録C、模擬審査

要点

各実習の成果物を1つのフォルダや文書にまとめてください。第1章で直したプロンプトが第5章の実習の評価対象になるよう、課題はつながっています。6週間を終えると、自分のプロンプト一式と、それを検証するテストセットが残ります。

表記と出典の方針

  • 確認日。 製品機能、パラメータ、上限、対応予定は、2026年10月20日に各社の公式ドキュメントで再確認しました。付録Dに、確認したすべてのページをベンダー別にまとめています。
  • 原則を優先。 AI製品の名前や機能は頻繁に変わります。本書はモデルのバージョン番号や価格など、すぐに古くなる情報をできるだけ避け、数年後も通用する設計原則を中心にしています。特定のモデルだけに当てはまる内容は、「一部の最新モデルでは」のように範囲を明示しました。
  • 元の表記。 output_config.effort、reasoning.effort、max_tokensなど、製品やAPIの名前は翻訳せず元の表記を使います。概念を表す語は、初出時に日本語での意味を添えています。
  • 架空の組織。 実務の場面や実習に登場する会社・機関はすべて架空のものです。実在の企業や顧客とは関係ありません。
  • アドレスの変更。 Anthropicの開発者向けドキュメントはplatform.claude.com/docs、OpenAIはdevelopers.openai.com/api/docsが現在のアドレスです。旧アドレスからも転送されますが、本書のリンクはすべて新しいアドレスを使っています。