第3章 製品形態と機能の選択

学習目標

  • チャット、プロジェクト(知識空間)、カスタムアシスタント、コネクタ、エージェント機能、ディープリサーチ、予約タスク、APIの違いをたとえで説明する。
  • 継続期間、共有範囲、外部資料、行動の有無、製品への組み込みの必要性から形態を選ぶ。
  • 現在の会話、保存された指示、記憶機能、プロジェクト指示の適用範囲を区別する。
  • コネクタが利用者の権限に従うこと、読み取りと書き込みの権限の違い、エージェントに承認箇所が必要な理由を説明する。
  • 製品名が変わっても形態の性質で判断し、機能表ではなく実際の業務で比較する。

はじめに

会計事務所のナム所長は、職員たちがAIを使う様子を見ていて、奇妙な点に気づきました。一人の職員は、毎朝同じ業務規則の文書を新しい会話に貼り付けていました。別の職員は、取引先から受け取った資料を毎週ダウンロードし、もう一度アップロードしていました。さらに別の職員は、10か所のウェブサイトを回って情報を集める作業を自分で行い、AIにはその結果を要約させるだけでした。三人とも、同じチャット画面一つですべての仕事をしていました。

三人の職員の仕事は、それぞれ形が異なっていました。一人目は同じ規則で繰り返す仕事、二人目は外部システムの最新資料が必要な仕事、三人目は複数の段階を行き来しながら行動する必要のある仕事です。AI製品には、こうした形に合わせた形態が別に用意されています。形態の選択を誤ると、毎日同じ手間を繰り返したり、古い資料に基づいた答えを受け取ったり、必要以上に重いツールを使ったりすることになります。

この章は、形態を選ぶ基準から始まります。続いて、チャット、記憶機能、プロジェクト、カスタムアシスタント、コネクタ、エージェント機能、ディープリサーチ、予約タスク、APIを順に見ていきます。「さらに深く」では、決まった手順と開かれた問題を区別する方法と、会社の文書を使って答えさせるためにモデルを再学習させる必要があるかを判断する方法を扱います。AI活用能力のうち、委任(Delegation)に当たる章です。

重要な概念

形態を選ぶ五つの問い

AI製品は名前が頻繁に変わりますが、形態はいくつかに整理できます。選ぶ際は五つを問います。

  1. どれほど長く続く仕事か? 一度で終わるか、数週間同じ資料や規則で繰り返すか。
  2. 誰と使うか? 一人か、チームか、組織全体か。
  3. 外部資料が必要か? 社内ドライブ、メール、メッセンジャーの最新資料を見るか、ウェブを広く調べるか。
  4. 行動まで行うか? 答えだけでよいか、ウェブの巡回、フォーム入力、メール送信が必要か。不在時に決まった時刻に動く必要があるか。
  5. 自社の製品やシステム内に組み込む必要があるか? 人が画面で使えば十分か、プログラムが自動で大量に呼び出す必要があるか。
問いへの答え 最初に検討する形態
一度で完了、一人で使う チャット
同じ資料と規則で反復し、チームで蓄積 プロジェクト(知識空間)
整えた指示と資料を多くの人が同じ方法で使う カスタムアシスタント
社内システムの最新資料が必要 コネクタ
複数の出典を比較した根拠付き報告書 ディープリサーチ
複数のサイトやアプリを行き来して行動 エージェント機能
決まった時刻や出来事に合わせて反復実行 予約タスク
自社サービスへの組み込み、大量自動処理 API

この表は出発点にすぎず、各形態は互いに排他的なものではありません。一つの業務が複数の問いにまたがる場合は、形態を組み合わせて使います。例えば、提案書を作る仕事なら、作成の規則はプロジェクトに入れ、顧客企業の最新資料はコネクタで探し、毎週の進捗の要約は予約タスクで受け取ります。組み合わせるときは、行動が起こる箇所ごとに、承認と検討の段階を設けます。

チャット:電話相談一回

チャットは、質問して答えを受け取る最も基本的な形態です。一度の電話相談のように、その場で完結する単発の作業に向いています。アイデア出し、短い下書きの作成、文章の推敲、1回限りの質問が代表例です。多くのチャット製品では、ファイルの添付、ウェブ検索、画像の理解といったツールを、会話の中で使えるようになっています。

限界は、文脈が基本的にその会話内にとどまることです。記憶機能が一部を次の会話につなぐ場合もありますが、重要な規則と資料が自動で引き継がれる保証はありません。同じ規則と資料を毎回使う仕事をチャットだけで処理すると、毎回貼り付ける手間があり、人ごとに内容も結果もばらつきます。

履歴に残したくない会話のために、複数の製品が一時チャットを提供しています。OpenAIは、一時チャットは会話履歴に表示されず、メモリへの保存や更新を行わず、モデルの改善にも使われないものの、安全上の目的で最大30日間保存される場合があると案内しています。一時チャットを保存すると通常の会話に変わり、そのアカウントの設定に従って扱われます。

現在の会話、保存した指示、記憶機能、プロジェクト指示

「以前伝えたので知っているはず」という期待はよく外れます。モデルの記憶は、製品が何をコンテキストに入れるかに依存するからです。区別すべき層は四つあります。

層 誰が記入するか 適用範囲 たとえ
現在の会話 利用者とモデル その会話のみ いま行っている通話
カスタム指示(custom instructions) 利用者 パーソナライズがオンの通常会話(カスタムGPT、非パーソナライズの一時チャットなどを除く) 常に携帯する名刺の裏のメモ
記憶機能(memory) 製品が会話から選んで保存 パーソナライズがオンの会話 行きつけの店主の記憶
プロジェクト指示 所有者と編集権限者 そのプロジェクトのみ チームの引き出しに貼った作業規則

OpenAIは、カスタム指示は利用者が直接与える案内、記憶は製品が複数の会話や出典から選んで蓄積する情報と区別します。会話を消しても別保存の記憶が残る場合があるため両方を確認し、プロジェクト指示はその中だけに適用されカスタム指示より優先すると案内しています。

重要な仕事では条件を記憶任せにせず、指示やプロジェクト指示に明記してください。

プロジェクト(知識空間):チーム共用の引き出し

プロジェクトは、関連する会話、ファイル、指示を一か所に集めた作業空間です。製品ごとに名称は異なりますが、本書では知識空間とも呼びます。OpenAIは、毎週の調査やコンテンツの下書きのように、繰り返し行う仕事にプロジェクトを再利用するよう勧めています。AnthropicのClaudeのプロジェクトでも、プロジェクトごとにナレッジベース(アップロードした文書)と指示を置くことができます。

プロジェクトに適した仕事には、三つの性質があります。同じ資料を繰り返し使うこと、同じ規則を守る必要があること、そして数週間以上続くことです。

共有時は境界を考えます。

  • 閲覧範囲:OpenAIは、共有プロジェクトの全メンバーがアップロードされたファイルを閲覧・ダウンロードできると案内しています。一部だけが見るべき資料は、最初から共有空間に入れないのが原則です。
  • 編集権限:Anthropicはチーム・企業向けプランで、「閲覧可能」と「編集可能」を分けて共有できると説明します。誰が指示や資料を変えられるか決めてください。
  • 記憶の範囲:OpenAIは共有プロジェクトが自動で「プロジェクト専用メモリ」を使い、メンバー個人の記憶や外の文脈にアクセスしないと説明します。

資料が多くなると、製品がすべての文書を一度にコンテキストに入れるのではなく、関係のある部分だけを探して入れる方式に変わることもあります。Anthropicは、有料プランでは、プロジェクトの知識がコンテキストの上限に近づくと、検索方式(RAGモード)に切り替えて容量を増やすと案内しています。RAG(検索拡張生成)は、質問に関連する文書の断片だけを探し、モデルに渡す方式です。この方式では「見つけた部分」だけを読むため、見つからなかった部分は答えに反映されない可能性があります。そのため、プロジェクトの品質は、モデルよりも、アップロードしておいた資料によって大きく左右されます。旧版や廃止された版は削除し、資料ごとに更新の責任者を決め、文書の冒頭に適用対象と施行日を書いておいてください。原本が頻繁に変わる資料なら、コピーを置く代わりに、コネクタで原本を接続します。

カスタムアシスタント:マニュアルを知る専任担当者

カスタムアシスタントは、指示と参考資料、場合によってはツールも組み合わせ、複数の人が同じ方法で支援を受けられるようにした形態です。社内の福利厚生を案内するアシスタントや、ブランドの文体を校正するアシスタントなどが、その例です。

OpenAIは、カスタムアシスタントは専門家が整理した固定知識を組織全体に広める用途、共有プロジェクトはメンバーが資料や会話を蓄積する共同作業に向くと説明します。一方は完成したマニュアルの配布、他方は共同の作業場です。

区分 カスタムアシスタント 共有プロジェクト
知識の性質 整理・固定された知識 メンバーが加え続ける知識
利用者 多くの人が個別に 少人数が共同で
管理の負担 担当者が指示と資料を継続更新 全メンバーが整理
例 新人向けオンボーディング案内役 四半期計画の作業室

カスタムアシスタントを作るときは、役割を説明するだけで終わらず、四つの部分をそれぞれ設計します。繰り返し守る指示、参照する資料、使用できるツール、そして行わないこと(例:個人の事情に応じた法的判断は担当者に引き継ぐ)です。資料を入力したからといって、その内容をすべて完璧に把握しているわけではありません。代表的な質問を使って試してから公開する必要があります。

参考

この形態の製品名は移行中です。2026年10月20日の確認時点で、OpenAIはカスタムGPTを2026年12月11日に終了予定とし、指示をスキル、知識ファイルを参照ファイルに移すPlugins移行を案内しています。Googleは個人アカウントのGemsを2026年11月からskillsに移行し、Workspaceビジネスアカウントは2027年3月と案内しています。名前が変わっても「指示+参考資料+多くの人が同じ方法で使用」という性質は同じです。名前より性質で覚え、製品変更時は機能表ではなく、慣れた依頼と難しい事例数件で結果を直接比較してください。OpenAIも移行後にこの比較を勧めています。

コネクタ:自分の入館証で入る

コネクタはAIをドライブ、メール、メッセンジャー、カレンダーなどの外部サービスにつなぎ、会話中に情報を探し、ときに行動まで可能にする機能です。「アプリ」「接続アプリ」とも呼ばれます。多くは**MCP(Model Context Protocol)**という公開標準に基づきます。公式文書はMCPをAIアプリケーションと外部システムを接続するオープンソース標準と紹介し、電子機器を標準方式でつなぐUSB-C端子にたとえます。一度作った接続を複数のAI製品で使えるのが利点です。

コネクタの最も重要な性質は、権限の継承です。Anthropicは、コネクタが利用者一人ひとりの権限を引き継ぐため、連携元のシステムでその人がアクセスできないファイルや記録には、コネクタからもアクセスできないと説明しています。OpenAIも、企業向けワークスペースの接続アプリは、組織の既存の権限設定を尊重すると案内しています。アプリによっては利用者ごとにアカウントを接続する場合もあれば、管理者が設定した接続を使う場合もあります。コネクタによって、本来持っていない権限が付与されることはありません。社員の入館証で入れる階にしか入れないのと同じです。

このたとえには補足が二つあります。

  • 誰の入館証か:Anthropicは、共通の認証情報で作ったコネクタは、その認証情報が許すすべてにアクセスできると説明します。広い権限の共用アカウントで接続すると、個人別の区別が崩れます。
  • 読み取りと書き込みは別の権限:文書を検索して読むことと、メールを送ったり、予定を変更したり、ファイルを削除したりすることでは、リスクの大きさが異なります。Anthropicは、チーム・企業向けプランの管理者がコネクタのツールごとに「常に許可」「承認が必要」「ブロック」を設定できると説明しています。また、こうした制限によって、連携元のシステムが許可する範囲を超えた権限が与えられることはないとも説明しています。

最新資料が必要なら、毎週コピーを再アップロードするより、アクセス権のある原本につなぐほうが正確で安全です。ただしAnthropicの案内どおり、信頼でき、業務に必要なサービスだけを接続してください。

エージェント機能:用事を任せる秘書

エージェント機能は、AIが目標を受け取り、複数の段階を自ら計画し、ウェブサイトやアプリを行き来して情報を集め、フォームに入力したり、文書を作ったりといった行動まで行う形態です。OpenAIは、ChatGPTで、素早い会話のためのChatとは別に、より長く複数の段階からなる作業と、完成した成果物のためのエージェントであるWorkを案内しています。また、利用者は進捗を見て、方向を変えたり、重要な行動を承認したりできると説明しています。

用事を人に任せるように、三つを決めます。

  1. 目標と終点:何ができれば終わりか(比較表、下書き、予約依頼の直前までなど)。
  2. 許可範囲:使うサイトやアプリ、行わない行動(購入、会員登録、外部送信を禁止するなど)。
  3. 承認箇所:取り消しにくい行動の前で止まり、人の確認を受ける場所。
行動 リスク 基本原則
検索、閲覧、比較表作成 低い 任せてよい(結果は確認)
下書き、カートへの追加、仮保存 中程度 任せるが実行前に確認
決済、外部送信、削除、契約への同意 高い 必ず人が承認

注意

エージェントは、人が画面を見ていないときでも動きます。決済、削除、外部送信のように、取り消すことの難しい行動の前には、必ず人が確認する段階を設けてください。エージェントが読むウェブページやメールに、隠れた指示が含まれる可能性があることも覚えておいてください(第4章)。

ディープリサーチ:複数の出典を比較する報告書

**ディープリサーチ(deep research)**は、複雑な質問を受けて調査計画を立て、複数の出典を探して読み、引用の付いた報告書にまとめる機能です。OpenAIは、ChatGPTのディープリサーチでは、まず調査計画を表示して利用者が修正できるようにし、進行中にも方向や出典を調整でき、引用や出典へのリンクが付いた構造化された報告書を返すと説明しています。また、複数の出典を総合する必要のある深い質問に使い、素早い確認や短い会話には、通常のチャットのほうが速い場合があると案内しています。

ディープリサーチも複数の段階を自ら進めますが、外部に変更を加える行動型のエージェントとは異なり、読み取りが中心です。OpenAIは、ディープリサーチは接続されたアプリの読み取り機能だけを使い、書き込み機能は使わず、アプリの接続が元の権限を超えることもないと明らかにしています。引用が多いからといって、検証が終わったわけではありません。報告書の主要な主張のうちいくつかは、原文を開いて確認してください。

予約タスク:アラームを設定した反復業務

予約タスクは、決まった時間や条件に合わせて、同じ仕事を繰り返し実行する機能です。OpenAIは、ChatGPTがタスクを一度だけ、または繰り返し実行したり、変化を監視したり、対応するアプリの出来事(新着メールやメッセンジャーのメッセージなど)に反応して実行したりできると案内しています。承認が必要な行動に出会うと、タスクが停止して、利用者による検討を待つ場合があることも記載しています。

予約タスクで誤解しやすいのは、決まった時間に実行されることと、正しく判断することは異なるという点です。要約は時間どおりに届いても、その内容は引き続き確認する必要があります。予約タスクを設定するときは、実行する時点、資料の基準時点、結果に異常があったときに確認する人、タスクを終える時点も併せて決めてください。人がいないときに動くため、与える権限は狭くします。OpenAIは、共有したタスクのリンクから他の人が指示の内容をすべて読めるため、タスクの題名や指示に機微な個人情報を入れないよう案内しています。

API:自分で組み立てる部品

**API(Application Programming Interface)**は、プログラムがAIモデルを直接呼び出すための通路です。人が画面上で使う製品とは異なり、自社のアプリや社内システムがモデルにリクエストを送り、結果を受け取って使います。自社アプリに要約機能を組み込む場合、1日に数万件の問い合わせを自動分類する場合、動作を細かく制御する必要がある場合などに使います。

非開発者の管理職が知っておくべき点は四つです。

  1. 課金は別です。 OpenAIはチャット製品のサブスクリプションに含まれる使用量とは別に、APIの利用にはAPI独自の料金規則が適用されると案内します。有料プランを契約していてもAPIは無料になりません(第5章)。
  2. 急がない大量の作業は、より安く処理できます。 OpenAIは、即時の応答が不要な作業向けのBatch APIは、同期呼び出しより50%安く、24時間以内に完了すると案内しています。Anthropicも、一括処理のリクエストに50%の割引を適用しています。
  3. 開発・運用の負担があります。 エラー対応、費用監視、モデル変更時の再点検が必要です。
  4. 正確さと安全性は自動では得られません。 検証手順とデータ方針は引き続き必要です。

一人か二人の繰り返し業務のために、最初からAPIを探すのは、必要以上に重い選択になる場合が多くあります。人が画面を使って処理できる量なら、まずはプロジェクトやカスタムアシスタントで試してみてください。

さらに深く

ワークフローとエージェント:決まった道と自由な道

Anthropicはシステムを二つに分けます。ワークフローはモデルやツールが事前に決めた経路を進み、エージェントはモデルが自ら手順とツールの使い方を決めます。電車が線路を走り、タクシーが目的地を聞いて経路を選ぶのと同じです。

Anthropicの助言は明確です。可能な限り単純な解決策を探し、必要なときにだけ複雑さを増すということです。仕事が明確に定義され、予測可能性が重要な場合にはワークフローが向いています。一方、何段階の作業が必要になるか事前にはわからない、開かれた問題にはエージェントが向いています。エージェントは、よりよい結果を出すために時間と費用を使いますが、自律性が高い分だけ費用が増え、段階ごとに誤りが蓄積していくリスクがあります。そのため、隔離された環境で十分に試し、人が確認する箇所と、反復回数の上限といった停止条件を設けるよう勧めています。

毎月同じ順で処理する仕事なら、エージェント導入より定型段階の自動化が安価で安定します。

社内文書で答えさせるには再学習が必要か

「自社の規程を知るAIを作るには、その規程でモデルを再学習させる必要がある」という提案をよく聞きます。追加の資料でモデルを再学習させることを、**ファインチューニング(fine-tuning)と呼びます。OpenAIは、正確さを高める方向を二つの軸で説明しています。モデルが学習していない知識、古い知識、会社固有の知識が問題であれば、文脈を最適化する方向、すなわち必要な資料を探して入力する検索拡張生成(RAG)**が適しています。形式が一貫していない、口調やスタイルが合わないなど、モデルの行動を一貫させることが課題であれば、ファインチューニングを検討します。そして、出発点は常にプロンプトの改善であり、そのとき作った評価セットを基準線にするよう勧めています。

社内規程についての質疑応答は、たいてい第一のケースです。規程は改正されますし、答えには根拠となる条項を示す必要があります。再学習させたモデルは、規程が改正されるたびに再び学習させる必要があり、どの条項を根拠に答えたのかを示すことも困難です。一方、プロジェクトやカスタムアシスタントに最新の規程を入れるか、コネクタで原本を接続すれば、文書を変更するだけで済み、引用によって根拠を示すことができます。費用のかかる選択をする前に、まず「知識が問題なのか、行動が問題なのか」を問いかけてください。

実務の場面

ソダムリビング発売チームの2か月の作業設計

インテリア雑貨会社「ソダムリビング」のイさんは新商品発売を担当します。2か月間、マーケティング3人と商品企画2人が協力します。AIの利用を五つの問いで整理しました。

第一に、発売準備は2か月間にわたり、5人が同じ資料(製品仕様書、ブランドガイド)を繰り返し使います。そこで共有プロジェクトを作り、ブランドガイドの主要な規則をプロジェクト指示に入れました。当初はブランドガイドを各自のカスタム指示に入れるという意見もありました。しかし、カスタム指示は個人のほかの会話にも影響し、メンバーごとに内容が異なってしまいます。さらに、共有プロジェクトではメンバー個人のカスタム指示が使われないため、この案は採用しませんでした。まだ確定していない原価表は、商品企画担当の2名だけが閲覧すべき資料のため、プロジェクトにはアップロードしませんでした。共有プロジェクトにアップロードしたファイルは、メンバーの誰もが開いて閲覧し、ダウンロードできるからです。

第二に、日々変わる在庫と販売数値は社内ドライブのスプレッドシートにあります。毎回アップロードせず、各人が自分のアカウントでドライブのコネクタをつなぎ、会話中に最新ファイルを探せるようにしました。マーケティング側は原価フォルダーの権限がないため、コネクタでも見られません。管理者に依頼し検索・閲覧は許可、シート変更は要承認にしました。分析中にAIが原数値を変えるのを防ぐためです。

第三に、複数通販サイトの競合価格比較はエージェント機能に任せました。ただし「購入・会員登録はせず、比較表ができたら停止」と範囲と終点を明確にしました。

第四に、毎週月曜朝の業界ニュース要約を予約タスクにしました。最初の数週は自分で確認してから全員に共有しました。

APIは使いませんでした。顧客アプリへの組み込みではなく、5人が画面で処理できる量だからです。基準は「最強の機能」ではなく「仕事の性質に合う機能」でした。

星の橋イベントの仕入先調査

イベント会社「星の橋イベント」のチョさんは、来月の企業研修で使う音響機材レンタル業者を探します。韓国の首都圏にあり、無線マイク20台以上を持ち、当日技術者を派遣できることが条件です。上司は金曜までに5社の比較表と、うち3社への見積依頼メールの下書きを求めています。

仕事を三つに分けました。

  1. 候補探しと比較:複数の業者のホームページや口コミを比較する必要があり、各情報の出典をチーム長が確認できる必要もあります。チョさんは、通常のチャットの検索では出典が数件しかなく、不十分だと考え、ディープリサーチを使いました。調査計画が出ると、「首都圏」と「技術者の派遣」という条件が抜けていることに気づき、計画を修正してから開始しました。
  2. 保有機材の確認:ホームページごとに機材一覧の場所が異なり、実際にページを行き来する必要がありました。この部分はエージェント機能に任せましたが、問い合わせフォームの送信や会員登録はしないよう、許可する範囲を決めました。
  3. 見積依頼メール:エージェントにメールの送信まで任せれば速いでしょうが、外部に送るメールは会社名で行う約束です。チョさんは、メールコネクタの「送信」を承認が必要な状態にしたうえで、下書きだけを作らせ、自分で読んで修正してから送信しました。

ある業者は、報告書に「技術者の派遣が可能」と書かれていましたが、引用された出典は3年前のイベントの口コミでした。チョさんは、その業者を「要確認」と表示し、見積依頼メールにその質問を入れました。すべてをエージェントに任せる方法は、外部への送信までつながるため危険であり、すべてを手作業で行えば金曜日までに終えられませんでした。読み取りと比較は任せ、外部への行動は人が承認するという境界が要点でした。

間違えやすいポイント

  1. 「強い機能ほどよい。」 単発質問にエージェント、2人の反復業務にAPIを使えば、費用とリスクだけ増えます。仕事に合う最も軽い形態を選びます。
  2. 「コネクタで全社資料が見える。」 コネクタは、接続した人の権限にそのまま従います。逆に、アクセス範囲の広いアカウント一つを複数人で共有して接続すると、そのアカウントがアクセスできる全範囲のデータを見られるようになってしまいます。コネクタを一律に危険だと考えて避けると、古いコピーが出回るという、より大きな問題が生じます。
  3. 「プロジェクトにアップロードすれば、モデルが学習する。」 アップロードした資料は、そのプロジェクトの参考となる文脈です。アップロードとモデルの学習は別のことであり、学習に使われるかどうかはプランと設定によって決まります(第4章)。
  4. 「資料を置いてある空間なら、答えは正確だ。」 資料があってもモデルは間違えたり、一般知識を混ぜたりする可能性があります。検索方式では、見つからなかった部分が抜け落ちます。検証は引き続き必要です。
  5. 「記憶機能があるので、条件をもう一度伝える必要はない。」 記憶は製品が選んだ一部の情報にすぎず、何が保存されているかもはっきりしません。重要な条件は、指示やプロジェクト指示に明記します。
  6. 「予約しておけば、正しく処理してくれる。」 予約は実行する時点を決めるだけであり、判断の正確さを保証するものではありません。結果を確認する担当者と、終了する時点を決めます。
  7. 「すべて任せるのが最速だ。」 取り消しにくい決済や送信を無承認で任せると、速度よりリスクを増やします。
  8. 「会社の文書を使って答えさせるには、モデルを再学習させる必要がある。」 知識が問題であれば、まずは資料を探してモデルに入力する方式を選びます。ファインチューニングは、行動の一貫性が問題になっているときに検討します。

ひと目でわかるまとめ

形態 たとえ 向く仕事 注意点
チャット 電話相談一回 単発質問、短い下書き 文脈はほぼ会話内にとどまる
カスタム指示・記憶 名刺のメモ、店主の記憶 個人の好みの反映 一部のみ。会話削除後も別に残りうる
プロジェクト チーム共用の引き出し 同じ資料・規則で反復 全員がファイル閲覧可能。指示は内部のみ
カスタムアシスタント マニュアルを知る専任者 固定知識を多くの人に 名称移行中。管理責任者が必要
コネクタ 自分の入館証 社内システムの最新資料 権限継承、共用アカウントの危険、読み書きの区別
エージェント 用事を任せる秘書 複数サイトを回る作業 範囲・終点・承認箇所
ディープリサーチ 調査報告書の依頼 複数出典の比較・総合 数分かかる。引用も主張別に確認
予約タスク アラーム付きの反復業務 定期要約、変化の監視 実行≠正確。権限を狭く
API 部品を買って組み立てる 自社サービスへの組み込み、大量自動処理 別課金、バッチ割引、運用負担

公式ドキュメントで確認する

セルフチェック

3-1. AI製品の形態を選ぶときに投げかける、五つの問いを書いてください。

3-2. 共有プロジェクトとカスタムアシスタントを、「知識が固定されるか、共同で蓄積されるか」を基準に、それぞれの特徴を1行ずつで説明してください。

3-3. 次の行動をエージェントに任せようとしています。それぞれを「任せてよい」「実行前に確認」「必ず人が承認」に分類し、理由を書いてください。行動:社内ウィキの文書を読む、会議室を仮予約しておく、顧客200人に割引クーポンを送信する、協力会社と共有した予定を確定する。

3-4. メールコネクタの各ツールを、「常に許可」「承認が必要」「ブロック」のいずれかに設定できます。「メールの検索」「返信の下書きの作成」「メールの送信」「メールの完全削除」を、それぞれどこに設定しますか。理由とともに書いてください。

3-5. カスタム指示、記憶機能、プロジェクト指示を、「誰が決めるか」と「どこに適用されるか」という二つの列で区別する表を作ってください。

3-6. ディープリサーチが通常チャットより有利な場合と不利な場合を一つずつ挙げ、理由を書いてください。

3-7. 自分のチームの繰り返し業務を一つ選び、五つの問いに答えてください。その答えを根拠として、形態(複数を組み合わせてもかまいません)と承認箇所を設計してください。

実習課題

実習

自分の業務の形態マップを作る(40分)

  1. 過去1か月にAIで行った、または行いたい業務を五つ書く。
  2. 各業務について五つの問い(継続期間、共有、外部資料、行動、製品への組み込み)への答えを表に入れる。
  3. 答えを根拠に業務ごとの形態を選び、行動を伴う業務には承認箇所を書く。今使っている方法と異なる場合は、印を付ける。
  4. 違いがある業務一つを実際に変更し、時間や品質の差を記録する。

完了基準: 五つの業務すべてについて、形態とその根拠が表に記載されており、実際に変えてみた業務一つの変更前後の違いを、数字や具体的な事例で説明できる。

実習

同じ業務を二つの形態で試す(50分)

  1. 文書を根拠に答える必要のある質問を五つ用意する(例:公開されている公的機関の手続き案内書についての質問)。そのうち一つは、文書に答えのない質問にする。
  2. 形態A:通常チャットに文書を貼り、五問を尋ねる。
  3. 形態B:同じ文書と、「文書にない内容はないと答え、根拠となる文を引用せよ」という指示を入れたプロジェクトを作り、同じ質問をする。
  4. 二つの形態の答えを、正確さ、根拠の表示、答えのない質問の扱い、再び使うときの手間という観点で比較する。

完了基準: 二つの形態の比較表があり、この業務を繰り返すのであればどちらの形態を選ぶかを、五つの問いから根拠を挙げて説明できる。