第1章 ベンダーポリシーとデータ条件

学習目標

  • 利用規約、利用ポリシー、プライバシーポリシー、データ処理補遺(DPA)がそれぞれ何を定めるかを区別する。
  • 同じベンダーの個人向けプラン、法人向けプラン、API、クラウド経由の利用を利用経路ごとに分け、データ条件を比較する。
  • 学習利用、保持、人によるレビュー、データの所在地、データ処理における契約上の地位を独立した問いとして読み、それぞれの例外を見つける。
  • ベンダーの利用ポリシーの施行日と高リスク用途の要件を確認し、組織の規程に反映する。
  • 根拠文書と確認日を付けたプラン別データ条件比較表を作成・更新する。

はじめに

ある会社の企画チーム長が「有料アカウントなので会社の資料を入れても安全です」と話したとします。この言葉には3つの思い込みが混じっています。支払いの有無で規約が決まるという思い込み、「学習に使わない」と「保持しない」は同じだという思い込み、そして個人が同意した規約が会社を守るという思い込みです。

AIツールのデータ条件は製品画面ではなく契約文書に記されています。その文書は、誰が、どの経路で、どのプランを使うかによって変わります。同じモデルでも、個人アカウントのチャットアプリ、会社が契約した業務用プラン、開発者が呼び出すAPI、クラウド事業者経由のマネージドモデルには、それぞれ異なる規約が適用されます。

表に示す数値と設定はすべて確認日時点のもので、実習課題を通じて各自で再確認します。本章ではまずベンダー文書の種類と役割を整理し、利用経路を固定する方法を学びます。次に、データ条件を5つの独立した問いに分け、OpenAI、Anthropic、Google、Microsoft、AWSの公式文書を例に読みます。最後に利用ポリシーと出力物の条項を読み、すべてを1枚の比較表にまとめて更新する方法を扱います。

重要な概念

契約文書の全体像

ベンダーとの関係は、1枚の文書ではなく複数の文書の組み合わせで決まります。各文書が答える問いは異なります。

文書 答える問い 読むときの確認箇所
利用規約(サービス規約) 契約当事者は誰で、サービスの範囲と責任は何か 個人向けと商用が別か、対象製品は何か
利用ポリシー(AUP) 何に使ってよく、何に使ってはいけないか 禁止用途、高リスク用途の追加要件、施行日
プライバシーポリシー ベンダーが自ら決定する個人情報処理は何か アカウント情報、利用記録など、管理者として処理する範囲
データ処理補遺(DPA) 顧客の指示に従って顧客データを処理する条件は何か 処理目的の制限、セキュリティ措置、サブプロセッサー、返却・削除、国外移転
注文書・個別契約 この顧客だけに適用される特約は何か 保持期間、ゼロデータ保持、地域選択などの個別合意
ヘルプ・ドキュメントページ デフォルト設定と機能別の動作はどうか デフォルト、管理者設定、機能別の例外

**データ処理補遺(DPA、Data Processing Addendum)**は、顧客が預けたデータをベンダーがどのような条件で処理するかを契約上明確に定めた文書です。たとえるなら、利用規約は建物の賃貸借契約、DPAは預かった物をどのように保管・返却するかを定めた保管契約です。ヘルプページは建物の案内板に近いものです。案内板が変わっても契約が自動的に変わるわけではありませんが、実際の動作を理解するには案内板が最も正確です。

文書が矛盾した場合の優先順位も契約ごとに異なるため、比較表には根拠とした文書と条項を併記します。

同じ会社でも、規約は別

同じベンダーでも、個人が加入する個人向けプランと組織が契約する商用製品では、適用規約が異なります。銀行にたとえるなら、個人口座と法人口座の約定が違うのと同じです。個人口座に多額の入金をしても、法人向けの約定が適用されるわけではありません。

主要ベンダーの公式文書は、学習利用のデフォルトを次のように示しています。

ベンダー 商用製品のデフォルト 個人向け製品
OpenAI ChatGPT Enterprise、Business、Edu、ChatGPT for Healthcare、ChatGPT for Teachers、APIプラットフォームの入力・出力はデフォルトで学習に使わない。APIは2023年3月1日からデフォルトで不使用で、顧客の明示的な選択(opt-in)は例外 個人アカウントは「Improve the model for everyone」で学習への協力をアカウント単位で設定。Temporary Chatは一時的な状態では学習に使わず、安全目的で最大30日保持し、通常のチャットとして保存すると通常の規則が適用される
Anthropic Claude for Work、Anthropic APIなど商用製品の入力・出力はデフォルトで学習に使わない。フィードバック・バグ報告の送信や明示的な許可は例外 Free・Pro・Maxは個人向けプラン。Model Improvementで選択し、有効にすると新しい会話が非識別化された形で最大5年間、学習パイプラインに残ることがある
Google Workspace 顧客の事前の許可や指示なしに顧客データをモデルの学習に使わない。ドメイン外で人がレビューしたり学習に使ったりしない 個人のGoogleアカウントは本書の範囲外
Microsoft Microsoft Copilot(旧Microsoft 365 Copilot)のプロンプト・応答と、Microsoft Graph(メール・文書・チャットなどの組織データへのアクセス経路)から取得したデータは基盤LLMの学習に使わない 個人向け製品は本書の範囲外

参考

MicrosoftはMicrosoft 365 CopilotをMicrosoft Copilotに、Microsoft 365 Copilot ChatをMicrosoft Copilot Chatに改称し、セキュリティ・コンプライアンス条件は変更していないと説明しています。文書やライセンスには、しばらく旧名称が混在します。

まず利用経路を固定する

比較を始める前に「どの経路で使うか」を1行で固定する必要があります。同じモデルに到達する経路が複数あるためです。

  1. 個人アカウントのアプリ:規約の当事者は従業員個人です。
  2. 組織契約の業務用プラン:会社が契約し、アカウントを発行します。
  3. ベンダーの直接API:業務用チャットプランとは別の条件が付きます。
  4. クラウド事業者経由:AWS、Azure、Google Cloudのマネージドモデルです。クラウド事業者の規約とDPAが基本です。
  5. 他の製品に組み込まれたAI機能:そのSaaSの規約とサブプロセッサーの条件を併せて確認します。

Anthropicは、第三者のプラットフォーム経由でClaudeを使う場合、そのプラットフォームの規約が利用を規律すると案内しています。Microsoftも、Copilot内でAnthropicやOpenAIのモデルをサブプロセッサーとして使うことがあり、管理者が利用の可否を決定し、追加規約が適用されることがあるとしています。経路を固定しないと、別の経路の文書を根拠に誤った結論を出してしまいます。

比較表の最初の行には、必ず製品名、プラン、契約主体、利用経路、確認日を記します。

3つの軸を5つの問いに分ける

ベンダーのデータ条件を読む基本の3軸は、学習利用、保持、データ処理における契約上の地位です。実務ではさらに2つを加え、5つの問いに分けて読む方が安全です。

問い 確認すること 混同しやすいもの
1. 学習利用 入力・出力はモデルの学習・改善に使われるか。デフォルトと例外は何か 保持
2. 保持 どのくらい残るか。管理者が変更できるか。ゼロデータ保持は可能か 学習利用、画面上の削除
3. 人によるレビュー 不正利用監視や安全性レビューで人が内容を見る可能性があるか 学習利用
4. 所在地 どこに保存され、どこで処理されるか 保存場所と処理場所
5. 契約上の地位 DPAは適用されるか。ベンダーは処理者か、自ら目的を決める管理者か 利用規約の一般条項

5つの問いは独立しています。「学習に使わない」製品でも30日間保持することがあり、国内に保存しても海外で処理することがあります。

学習利用のデフォルトと例外

商用製品はおおむね「デフォルトで学習に使わない」と約束します。試験と実務で大切なのは、その後に続く例外です。

  • フィードバック:Anthropicは、商用製品でもユーザーが明示的にフィードバックやバグ報告を送ると、その会話を学習に使うことがあり、高評価・低評価のフィードバックに付随する会話全体を最大5年保持するとしています。Microsoftは、任意のフィードバックをCopilotの改善に使うことはあるものの、基盤LLMの学習には使わず、管理者がフィードバックを管理できると説明しています。
  • 明示的な選択:OpenAI APIでは、顧客がダッシュボードで自ら選択するとデータ共有が行われます。
  • 個人向けプランの個人設定:個人アカウントの学習利用は基本的に各自の設定に従いますが、学習を無効にしても、フィードバックを送った会話(OpenAI)や安全性レビュー対象の会話(Anthropic)は例外になりえます。会社はその設定を閲覧したり強制したりできません。

保持:デフォルト、管理者設定、ゼロデータ保持

**保持(retention)**は、データがベンダーのシステムにどのくらい残るかという問題です。公式文書が示す代表的な条件は次のとおりです。

製品 デフォルトの保持 変更できること
OpenAI API 不正利用監視ログをデフォルトで最大30日保持。ログにはプロンプト・応答などの顧客コンテンツや分類器の結果が含まれることがある Zero Data RetentionとModified Abuse Monitoringには、OpenAIの事前承認と追加要件の受諾が必要
OpenAI APIの状態保存機能 Responses APIの保存(store)はデフォルトで30日、ファイル・ベクトルストア・Conversationsなどは削除するまで残る これらの機能の多くはゼロデータ保持の対象外
Anthropic API 入力・出力を受信した日から30日以内にバックエンドで自動削除 ゼロデータ保持などの別途合意。Files APIなど顧客が制御する機能は顧客の設定に従う
Anthropicの指定モデル(Covered Models) 悪用リスクが高く追加安全措置の対象に指定されたモデルは、最低30日保持してから削除。クラウド経由にも適用 既存のゼロデータ保持合意は適用されない(一部顧客には一時的な例外)
Anthropicの共通例外 利用ポリシー違反としてフラグが立つと、入力・出力を最大2年、安全性分類スコアを最大7年保持 法令上の要求やポリシーの執行に必要な場合
Claude Enterprise デフォルトは無期限保持 Primary OwnerまたはOwnerが30日以上のカスタム保持期間を設定
Geminiアプリ(Workspace) 会話履歴はデフォルトで18か月 管理者が3・18・36か月から選ぶか、履歴を無効にする
Microsoft Copilot 対話履歴は他のMicrosoft 365コンテンツと同じ契約条件で保存 管理者がMicrosoft Purviewで保持ポリシーを設定

**ゼロデータ保持(ZDR、Zero Data Retention)**は、ベンダーがリクエスト・応答を不正利用監視ログなどに残さないための条件です。通常は設定画面のスイッチではなく、承認や別途契約によって得られます。また、適用されてもすべての機能がゼロデータ保持になるわけではありません。OpenAIの文書は、会話状態やファイルのようにサーバーに保存しなければ動作しない機能を対象から除外し、ゼロデータ保持の組織ではResponses APIの保存を常に無効として扱うと説明しています。安全上の例外も残ります。OpenAIは画像・ファイル入力を児童性的虐待コンテンツかどうか検査し、該当する画像はゼロデータ保持でも人によるレビュー用に保持するとしています。また事前の書面通知後、特定の顧客について一部モデルを対象外にできるとしています。

注意

画面で会話を消すことと、バックエンドで削除されることは異なります。Anthropicは、削除した会話を履歴から直ちに消し、バックエンドでは30日以内に削除するとしています。「従業員に毎日会話を消させる」という規程は、データ保持の統制策としては機能しません。

人によるレビューと不正利用監視

**不正利用監視(abuse monitoring)**は、ベンダーが利用ポリシー違反を探すためにリクエストと応答を自動分類し、必要に応じて人が確認する手続きです。学習とは異なる目的ですが、機密資料を扱う組織には「ベンダーの従業員が見られるか」も、学習利用と同じくらい検討が必要です。

  • Microsoftは、FoundryでAzureが販売するモデル(Azure OpenAIを含む)について、不正利用の兆候を検出するとサンプルを自動レビューし、必要に応じて承認されたMicrosoft従業員がレビューすると説明しています。管理対象の顧客はModified Abuse Monitoringを申請でき、承認されると人によるレビュー用の保存が無効になります。一方、Microsoft Copilotは、この方式の不正利用監視の対象外だとしています。
  • AWS Amazon Bedrockは、data_retention_modeというモードで保持を定めます。noneはリクエスト・応答を永続ストレージに書き込まないゼロデータ保持、defaultはモデル別のデフォルトポリシー、aws_reviewはAWSがその境界内で人によるレビューを行うことを認めるモードです。モデルが要求するモードより低い設定のアカウントでは、そのモデルを呼び出せません。

Bedrockは「組織が先に保持ポリシーを定め、それを満たすモデルだけを使う」という原則を示しており、サービスコントロールポリシー(SCP)とIAM条件キーで組織全体にゼロデータ保持を強制する例も載せています。

保存場所と処理場所

**データレジデンシー(data residency)**は、データをどこに保存し、どこで処理するかを定める設定です。ここでも2つを分けます。保存場所はデータが置かれる場所、処理場所はモデルが実際に計算する場所です。

  • OpenAI API文書の地域表では、韓国は保存は可能でも地域内処理には対応しない地域とされています。処理地域ではない場所を選ぶと、顧客コンテンツは地域外で処理・一時保存される可能性があり、米国外の地域にはZero Data RetentionまたはModified Abuse Monitoringの承認が必要です。
  • Microsoft Foundryでは、デプロイの種類によって処理される場所が異なります。標準デプロイでは顧客が指定した地域(geography)の中で処理します。「Global」デプロイではモデルがデプロイされているいずれの地域でも、「DataZone」デプロイでは指定されたデータゾーンの中で処理することができます。どの場合も、保存されるデータは顧客が指定した地域に残ります。
  • Microsoft Copilotは、EUのユーザーにEU Data Boundaryを適用しています。ただし、サブプロセッサーとして提供されるAnthropicのモデルは、現在、EU Data Boundaryの適用対象から除外されていると説明しています。

国外処理があれば、第3章の国外移転の検討につながります。処理場所を確認せず「国内保存」だけを見て、プライバシーポリシーの国外移転欄を空欄にしてはいけません。

DPAと処理上の地位

個人情報保護法の観点では、ベンダーには2つの立場がありえます。顧客の指示に従って顧客データを処理するときは処理者(processor)、つまり韓国法の受託者に近く、自らの目的でデータを使うときは、自ら目的を定める**管理者(controller)**です。DPAは前者の関係を契約で定める文書です。

ベンダー DPAと処理上の地位について公式文書が示す内容
Anthropic 国外移転用の標準契約条項(SCC)を含むDPAが商用サービス規約に自動的に組み込まれ、商用規約の受諾をもってDPAも受諾したとみなす
Google Workspace ユーザーのプロンプトはGoogle Cloudのデータ処理補遺(CDPA)上の顧客データとして扱われ、既存のWorkspace保護措置が自動適用される
Microsoft Copilotのプロンプト・応答にはDPAとProduct Termsが適用され、Microsoftは処理者として行動する。ただし、Web検索用に生成してBingに送る検索クエリにはDPAは適用されず、管理者としてProduct Termsの追加の約束に従う
OpenAI 法人向け製品とAPIについてDPAの締結に対応するとしている

MicrosoftのWeb検索は、同じ製品でも機能ごとに処理上の地位が分かれうる好例です。文書は、検索クエリは通常プロンプトから抽出した数語で(非常に短ければ全文が入る可能性あり)、Microsoft Entra IDに基づく識別情報を除くと説明しています。ただし、プロンプト中の名前まで消すという意味ではなく、契約上の地位も異なります。

利用ポリシーを読む

**利用ポリシー(Usage Policy、AUP)**は、利用が禁止される用途や、追加の条件が付く用途を定めています。データ条件が「データをどのように扱うのか」を定めるものであるのに対し、利用ポリシーは「何に使ってよいのか」を定めるものです。利用ポリシーを読む際には、まず次の3点を確認します。

  1. 施行日とバージョン:確認日現在、Anthropicの利用ポリシーページには2026年11月12日施行の改訂版が公開されており、それまでは2025年9月15日施行版が適用されます。OpenAIは2025年10月29日施行版を最新としています。改訂版の事前公開期間には「今適用される版」と「間もなく適用される版」を両方記録する必要があります。
  2. 構造:Anthropicのポリシーは、すべての利用に適用する共通基準、個人に害を与えるリスクが大きい用途への高リスクユースケース要件、消費者向けチャットボット・エージェント・未成年者向けサービス・エージェンティック利用などへの追加ガイドラインに分かれます。
  3. 高リスク用途の要件:2025年施行版は、法律、医療、保険、金融、雇用・住宅、学業試験・認証・入学、メディア・ジャーナリズムのコンテンツを高リスク領域として挙げています。これらの分野の資格を持つ専門家が公開・確定前にレビューすることと、AIを使用している事実を開示することを求めています。2026年11月の改訂版は、領域を法律、医療、金融、信用、保険、住宅、雇用、教育・資格、医療サービスへのアクセス、公的給付・サービス、法的地位・判断の11に整理し直しています。また、結果を変更したり修正したりする権限を持つ有資格者が実質的にレビューすることと、AIの使用を明確に知らせることを求めます。改訂版は、社内向けの下書き作成のように、高リスクの推奨を実際には提供しない作業を対象から除いています。さらに、法が許容する場合には、ポリシーに列挙された全面的に有利な決定(保険金の支払い、公的給付の提供など)について、事前の人によるレビューを求めていません。一部承認や減額は、これには含まれません。

どちらの版も、外部ユーザーと会話する消費者向けチャットボットとAIエージェントについて「人ではなくAIと会話している」事実の告知を求めます。改訂版は、各会話セッションの開始時または製品インターフェースで告知するよう整理しています。開示時にベンダー名やモデル名を示す必要はありません。

要点

利用ポリシーの要件と法令上の義務は別です。ベンダーが求めるAI利用の開示と人工知能基本法第31条の事前告知は、根拠も違反時の結果も異なります。規程には別々の行で記してください。

出力物の権利と補償条件

出力物の条項は通常、権利の帰属、第三者の権利侵害に対する防御・補償の約束、その適用条件に分かれます。

MicrosoftはCopilotの出力物の所有権を主張しませんが、著作権で保護されるかは判断しないとしています。また商用顧客がCopilotやその出力物の使用で著作権侵害訴訟を受けた場合は、防御し、不利な判決・和解の金額を負担するとし、その条件として製品内蔵のガードレールとコンテンツフィルターの使用を挙げています。

原則は1つです。補償の約束には条件があり、それに反する利用は約束の範囲外になります。 フィルターを回避する利用方法は契約上の補償保護を失う原因となるため、比較表には補償の約束と適用条件を併記します。

プラン別データ条件比較表を作る

本章のスキル目標は「プランごとのデータ条件を比較する」です。次の手順で比較表を作ります。

  1. 比較する経路を固定します。同じベンダーでも個人向けプラン、業務用プラン、APIを別の列にします。
  2. 行には5つの問いを細分化して置きます。学習のデフォルト、学習の例外、デフォルトの保持、管理者の保持設定、ゼロデータ保持の可否と条件、人によるレビュー、保存場所、処理場所、DPA、サブプロセッサー、利用ポリシーの版、補償条件です。
  3. 各セルに公式文書のリンク、根拠となる文、確認日を書きます。
  4. 見つからないセルは空欄にせず「未確認」、該当しないものは「該当なし」と書きます。未確認のセルはベンダーへの質問リストに移します。
  5. 表の下に「この経路でどの等級のデータを入力できるか」を条件文で書きます。
  6. 再確認日を決めます。規約改訂の通知、契約更新、新機能導入の際にも再確認します。

さらに深く

機能が増えるとデータの経路も増える

承認したツールに新機能が加わると、データが出ていく新しい経路が生まれます。Web検索は検索エンジンへ、コネクタは他のストレージへ、エージェントや外部ツールとの接続は第三者サービスへデータを送ります。OpenAIは、リモートMCPサーバー(外部ツールをモデルにつなぐModel Context Protocolサーバー)は独自の保持ポリシーを持つ第三者サービスだとしています。Microsoftも、Copilotエージェントの利用時にはそのエージェントのプライバシーポリシーと規約を確認するよう案内しています。

したがって、承認は「ツール単位」ではなく「機能単位」で管理する必要があります。同じCopilotでもWeb検索の有効・無効で契約上の地位が異なり、同じAPIでもファイル保存機能の利用によってゼロデータ保持の範囲が変わります。新機能が出たら、比較表の該当列を複製して機能別の行を加え、既存の承認条件をそのまま適用できるかを問い直します。

ベンダーの条件自体も変わります。本章だけでも、施行前の利用ポリシー改訂版や改称された製品がありました。重要文書ごとに担当者と再確認周期を決め、サブプロセッサーの変更やポリシー改訂の通知は個人ではなくチームのアドレスで受けます。文書が変わったら、それに依存する承認条件を逆にたどって再検討します。比較表に根拠文書と確認日を記すのは、この追跡のためです。

ゼロデータ保持の代償

ゼロデータ保持にも代償があります。会話履歴、ファイル保存、バッチ処理などサーバーに状態を残す機能を使えなかったり、自分で実装する必要があったりします。安全性レビューを条件としてのみ提供するモデルはゼロデータ保持のアカウントでは呼び出せず(Bedrock、Anthropicの指定モデル)、承認手続きと追加要件も付きます。

したがって「すべてのデータをゼロデータ保持にする」が常に正解とは限りません。判断はデータ等級から始めます。契約上ベンダーによる保持が禁じられたデータや法令上保管場所が制限されたデータなら、ゼロデータ保持とそれに合う機能の組み合わせを選びます。社内公開レベルのデータなら、デフォルトの30日保持と学習不使用で十分なこともあります。根拠はデータ等級と契約要件であり、「最も厳しい選択肢」という漠然とした安心感ではありません。

実務の場面

なみ新聞:編集局にAIを導入する前に

地域日刊紙「なみ新聞」の編集局長は、記者が記事の下書き校正と読者コメントの分類にAIを使いたがっているとの報告を受けました。社内調査をすると、複数の記者が個人の有料アカウントに取材メモを貼り付けており、匿名を約束した情報提供者の連絡先も含まれていました。

情報セキュリティ担当者は、まず経路を分けました。記者の個人アカウントには個人向け規約が適用され、学習利用は各自の設定次第で、会社は保持とアカウントを制御できません。「有料なので大丈夫」という説明は受け入れませんでした。支払いでは規約の種類は変わらないためです。

次に業務用プラン2つとAPIを、5つの問いで比較しました。両プランともデフォルトは学習不使用でもフィードバックの例外があったため、管理画面で送信を無効にできるか確認しました。情報提供者の情報を含むメモは、どの経路にも入力しないことにしました。ゼロデータ保持を申請する案もありましたが、問題は保持期間ではなく情報提供者の保護という約束なので、入力を禁止することが適切な統制策でした。

利用ポリシーも確認しました。確認時に施行されていたAnthropicのポリシーは、メディア・ジャーナリズムのコンテンツの自動生成・外部公開を高リスク領域とし、公開済みの改訂版はそれをリストから外していました。担当者は改訂版の施行後も「AIが書いた文章を人のレビューなしに掲載しない」という社内原則を維持しました。ベンダーのポリシーが緩和されても、新聞社の編集責任は変わらないためです。コメント分類は開発チームがAPIで実装し、原文がデフォルトの保持期間だけ残るよう、状態保存機能を使わないことにしました。

結論は、業務用プランの契約、フィードバック送信の無効化、カスタム保持期間の設定、情報提供者の情報の入力禁止、利用ポリシーの2つの版を併記した比較表でした。基準は知名度ではなく、5つの問いそれぞれで新聞社の約束を守れるかでした。

ダソム物産:クラウド経由で契約書を読ませるとき

貿易会社「ダソム物産」は、輸出入契約書から支払条件と紛争に関する条項を抽出し、整理する社内パイプラインを作ろうとしています。契約書には、取引先担当者の名前や連絡先が含まれています。また、一部の取引先と結んだ秘密保持契約では、「契約情報は、会社が指定した国の外では処理しない」と定めています。この会社は、すでにあるクラウド事業者と全社向けの契約を結んでいます。

開発チームはモデル開発元のAPIの直接利用を提案しました。法務担当者は2経路を並べました。直接APIは商用規約とDPAを新たに検討し、希望する国で地域内処理が可能か別途確認が必要でした。クラウド経由なら既存のDPAとセキュリティレビューを使えますが、デプロイの種類によって処理場所が広がる可能性がありました。

担当者は、クラウドの文書でデプロイ別の処理場所を調べました。Globalはモデルのある任意の地域で処理できるため秘密保持契約に適合せず、指定地域内だけで処理する標準デプロイなら条件を満たせました。不正利用監視で一部のリクエストが人によるレビュー用に保存されうることも確認し、Modified Abuse Monitoringの申請資格を問い合わせました。

開発チームは契約書全文をファイルストアにアップロードして繰り返し質問するつもりでしたが、それでは原文がサービス内に残り続けます。担当者は原文を自社ストレージに置き、毎回必要な条項だけを送る方式にしました。費用は少し増えましたが、会社が保持範囲を制御できるようになりました。

判断メモには、採用しなかった選択肢(直接APIは保留、Globalとファイル保存は却下)とその理由、そして「確認日時点の判断であり、デプロイの文書が変われば再検討する」と記しました。

間違えやすいポイント

  1. 「有料アカウントなら法人向け規約が適用される」 支払いと規約の種類は別です。個人が支払うプランは通常個人向けで、規約当事者も会社ではなく個人です。
  2. 「学習に使わなければ保存もしない」 学習と保持は別の問いです。APIも不正利用監視のためデフォルトの保持期間を設けます。
  3. 「ゼロデータ保持は設定で有効にすればよい」 通常は承認や別途合意が必要で、状態保存機能は対象外になることがあります。
  4. 「国内保存なら国外処理もない」 保存場所と処理場所は別々に決まります。地域表で処理への対応を確認します。
  5. 「同じ製品なら全機能に同じDPAが適用される」 Web検索クエリなど、同じ製品でもDPAが適用されない機能があります。
  6. 「ベンダーの利用ポリシーが許せば法律上も問題ない」 利用ポリシーはベンダーとの契約条件であり、法令と顧客契約上の義務は別途検討が必要です。
  7. 「補償の約束があるので出力物の使い方は問わない」 補償には条件があります。内蔵フィルターを回避する使い方は条件に反することがあります。

ひと目でわかるまとめ

問い 覚えること
どの文書か 利用規約(当事者)、利用ポリシー(用途)、プライバシーポリシー(ベンダー自身の処理)、DPA(顧客データの処理条件)、ヘルプ(デフォルト)
経路 個人アカウント、業務用プラン、直接API、クラウド経由、他製品内のAI機能は別々の列
学習利用 商用はデフォルトで不使用。フィードバック・明示的選択は例外
保持 OpenAI APIの不正利用ログは最大30日、Anthropic APIは30日以内に削除(フラグ時2年・7年、指定モデルは最低30日・ゼロデータ保持不可)、Claude Enterpriseはデフォルトで無期限・最低30日に設定可、Geminiアプリはデフォルトで18か月
ゼロデータ保持 承認・合意が必要。状態保存機能は対象外になりえ、一部モデルは人によるレビューが条件
所在地 保存と処理は別。OpenAI APIの韓国は保存のみ対応
契約上の地位 処理者か管理者か。CopilotのWeb検索クエリはDPA対象外
利用ポリシー 2つの施行日を記録。高リスク用途は有資格者のレビューとAI利用の開示
補償 条件付き。条件を比較表に記す

公式ドキュメントで確認する

セルフチェック

1-1. ベンダーのデータ条件を読む5つの問いを書き、そのうち「学習利用」と特に混同しやすい問いを2つ選んでください。

1-2. 利用規約、利用ポリシー、DPAがそれぞれどの問いに答える文書か、1行ずつ説明してください。

1-3. 開発者が「自社はゼロデータ保持の承認済みなので、ファイルストアや会話状態機能にアップロードした資料もベンダーに残らない」と話しました。OpenAIの公式文書に照らし、問題点を指摘してください。

1-4. 韓国を選択したOpenAI APIプロジェクトで処理場所について確認すべき点と、その結果がプライバシーポリシーの作成に与える影響を書いてください。

1-5. 同じ製品でも機能によってベンダーのデータ処理における契約上の地位が異なる例を1つ挙げ、その違いが組織の規程にどのような措置を求めるかを書いてください。

1-6. 利用ポリシーの現行施行版と施行前の改訂版が併せて公開されています。比較表の利用ポリシー欄に記録することと、改訂版施行前に社内で確認することを2つ書いてください。

1-7. (設計)会社で使うAIツール1つについて比較表の行を6つ以上設計し、各セルの記載根拠を決めてください。「未確認」が生じた場合の対応も含めてください。

実習課題

実習

プラン別データ条件比較表を作る(45分)

  1. 会社で利用中または検討中のAIツールを1つ選び、個人向けプラン、業務用プラン、API(またはクラウド経由)の3列を作る。
  2. 行に、学習のデフォルト、学習の例外、デフォルトの保持、管理者の保持設定、ゼロデータ保持、人によるレビュー、保存場所、処理場所、DPA、利用ポリシーの版を置く。
  3. 各セルに公式文書のリンク、根拠の文、確認日を書く。見つからなければ「未確認」と書く。
  4. 表の下に「顧客の個人情報を入力するために必要な条件」を3行で書く。

完了基準: すべてのセルに根拠リンクか「未確認」・「該当なし」があり、3行の条件が学習利用・保持・契約上の地位をすべて扱っている。

実習

ベンダーの変更監視記録を作る(30分)

  1. 比較表の根拠文書から5つ選び、文書名、URL、確認日、担当者、再確認周期を表にする。
  2. 各文書に依存する社内承認条件(例:「フィードバックを無効」「90日保持」)を1行ずつ結び付ける。
  3. 文書1つが変更されたと仮定し、再検討が必要な承認条件を表から探して印を付ける。

完了基準: 5文書すべてに担当者と再確認周期があり、仮定した変更で影響を受ける承認条件が1つ以上示されている。