第2章 韓国AI基本法
学習目標
- 法律・施行令・告示・ガイドラインの効力の違いと、人工知能基本法の施行時期を説明する。
- 人工知能システム、生成型人工知能(生成AI)、高影響人工知能、開発事業者・利用事業者・利用者・影響を受ける者の定義を事例に適用する。
- 透明性、安全性、高影響に関する義務と国内代理人の要件を、条文と施行令に基づいて区別する。
- 事実調査、是正命令、過料の関係と、政府が示した指導期間の性格を説明する。
- サービスを機能単位に分けて義務の対象か判断し、不確実な点を確認要請や法務レビューに回す。
はじめに
あるスタートアップの代表が「自社ではモデルを作らず、海外のモデルをAPIで利用するだけですが、AI基本法は関係しますか」と尋ねました。答えは「関係します」です。人工知能基本法は、自らAIを開発する会社だけでなく、他者のAIで製品やサービスを提供する会社も人工知能事業者としています。また、生成AIでサービスを提供すれば、高影響でなくても透明性の義務が伴います。
逆に、過剰な心配もよくあります。「採用AIは必ず高影響で、高影響なら影響評価は必須だ」。これも正確ではありません。高影響は領域と影響という2要件を併せて判断し、影響評価は文言上、努力義務です。
本章の条文引用はすべて、確認日に国家法令情報センターで確認した現行条文に基づきます。法律と施行令の原文を隣に開いて読むと効果的です。本章では法令文書の階層と施行時期から整理します。続いて定義と適用範囲、高影響人工知能の判断と責務、透明性と安全性の義務、国内代理人、執行体制を順に読みます。最後にすべての条文を1つの判断手順につなぎ、実際のサービスを機能単位に分けて義務の対象か判断する練習をします。
重要な概念
法令文書の階層と読み方
人工知能基本法の規則は、4階層の文書に分かれています。
| 階層 | 内容 | 拘束力 | 確認日現在の状況 |
|---|---|---|---|
| 法律 | 国会が制定した「人工知能の発展と信頼基盤の造成等に関する基本法」 | あり | 施行中 |
| 施行令 | 法律の委任事項を大統領令で定める | あり | 施行中 |
| 告示 | 法令が長官に委ねた詳細基準(例:累積演算量の算定方法) | 委任の範囲内であり | 国家法令情報センターの該当条文に関連する告示が見当たらない。確定したか直接確認が必要 |
| ガイドライン | 政府が解釈と履行方法を案内する資料 | なし(案内) | 透明性確保の案内指針は2026年1月公開。他のガイドラインは科学技術情報通信部と韓国知能情報社会振興院(NIA)のサイトで確認 |
ガイドラインに拘束力はありませんが政府の執行方針を示し、法律の文言を超える義務は作れません。判断メモには、各根拠がどの階層の文書かを書いてください。
法律は振興(基本計画、国家人工知能戦略委員会、人工知能安全研究所、産業支援)と信頼(倫理原則、検証・認証の支援、事業者の義務)の2軸で、実務の中心は第2条、第4条、第31〜36条、第40条、第43条です。
沿革と施行時期
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年1月21日 | 法律第20676号として制定・公布。附則:公布後1年を経過した日から施行、デジタル医療機器部分は2026年1月24日 |
| 2026年1月20日 | 法律第21311号として一部改正。委員会名を国家人工知能戦略委員会に変更するなど。2026年1月22日施行。ただしAI脆弱層に関する一部条項(第3条第5項、第35条第1項後段など)は公布後6か月を経過した日から施行 |
| 2026年1月21日 | 施行令制定(大統領令第36053号)。2026年1月22日施行(別表1のデジタル医療機器部分は1月24日) |
| 2026年1月22日 | 法律施行 |
| 2026年7月21日 | 改正法の残る条項と改正施行令(大統領令第36506号、脆弱層の範囲新設など)施行 |
| 2026年8月20日 | 施行令の他法改正(大統領令第36580号)施行。適用除外業務の引用条文を整備 |
所管省庁は科学技術情報通信部です。施行令は立法予告の段階にあるものではなく、すでに確定して施行されています。法令の沿革を読む際には、公布日と施行日、さらに条項ごとの施行日を区別してください。同じ改正法の中でも、条項によって施行日が異なることがあります。こうした内容は附則に記されています。
定義:人工知能システムと生成型人工知能
第2条の定義が、すべての義務の出発点です。
- 人工知能:学習、推論、知覚、判断、言語の理解など、人の知的能力を電子的方法で実現したもの。
- 人工知能システム:さまざまな水準の自律性と適応性を持ち、与えられた目標のために現実・仮想環境に影響を及ぼす予測、推奨、決定などの出力を推論する、人工知能に基づくシステム。
- 生成型人工知能:入力データの構造と特性を模倣し、文章、音、絵、映像、その他さまざまな出力を生成する人工知能システム。
- 学習用データ:人工知能の開発・活用などに用いられるデータ。
定義で注目する言葉は「推論」です。あらかじめ定めた規則を実行するプログラムと、データから学んだパターンで結果を推論するシステムは異なりますが、法律はその境界をチェックリストで定めていません。学習済みモデルが結果を作るか、入力で結果が変わるか、その結果が判断や行動に使われるかを問い、曖昧なら「該当する可能性あり」として義務の検討を続けてください。
誰が事業者か
人工知能事業者は、人工知能産業に関連する事業を営む法人、団体、個人、国家機関等で、2つに分かれます。
- 人工知能開発事業者:人工知能を開発して提供する者。
- 人工知能利用事業者:開発事業者が提供した人工知能を使い、人工知能製品または人工知能サービスを提供する者。
ほかに、利用者は人工知能製品・サービスの提供を受ける者、影響を受ける者は、それによって生命、身体の安全、基本権に重大な影響を受ける者です。両者は異なることがあります。採用評価ツールの利用者は企業の人事担当者ですが、影響を受ける者は応募者です。
バリューチェーンに置くと、次のようになります。
| 位置 | 例 | 法律上の地位 |
|---|---|---|
| モデルを作りAPIで提供 | 基盤モデル開発元 | 開発事業者 |
| 他者のモデルでサービスを作り顧客に提供 | APIベースのチャットボットサービス会社 | 利用事業者 |
| モデルをファインチューニングして他社に供給 | 特化モデルの供給元 | 開発事業者であり、元モデルに対しては利用事業者でもありうる |
| 購入したAIツールを自社業務だけに使用 | 社内文書の要約に商用ツールを使う会社 | サービスを提供しなければ利用者に近い |
| 製品・サービスの提供を受ける人 | アプリユーザー | 利用者 |
科学技術情報通信部の「人工知能の透明性確保に関する案内指針(ガイドライン)」は、透明性義務の主体を、利用者にAI製品・サービスを直接提供する人工知能事業者とし、国内利用者に提供する海外事業者も含むと説明しています。一方、AIを業務や創作の道具として活用する利用者は義務の対象外としています。これはガイドライン上の解釈です。他の義務でも同じ結論かは、該当条文の文言で別途確認する必要があります。
適用範囲と他の法律との関係
域外適用(第4条第1項):国外で行われた行為でも、国内市場や利用者に影響する場合は適用されます。
国防・安全保障の除外(第4条第2項、施行令第2条):国防または国家安全保障のみを目的に開発・利用され、施行令が定める人工知能、すなわち国防部長官・国家情報院長・警察庁長が指定する国防情報システム・兵器体系、対テロ・防諜、産業技術流出の捜査などの業務だけを行う人工知能には適用しません。「のみ」が要点で、同じ技術でも指定業務以外の用途で開発・利用する製品は除外されません。
他の法律との関係(第5条):人工知能等について他の法律に特別な規定があればそれに従い、なければ本法に従います。個人情報処理には個人情報保護法、信用評価には信用情報法も適用されるということです。第3章で個人情報保護法との接点を詳しく扱います。
高影響人工知能の2つの要件
高影響人工知能は、2つの要件をともに満たす人工知能システムです。第1に、人の生命、身体の安全、基本権に重大な影響や危険をもたらすおそれがあること。第2に、第2条第4号各目の領域で活用されることです。
| 目 | 領域 |
|---|---|
| イ | エネルギーの供給 |
| ロ | 飲料水の生産工程 |
| ハ | 保健医療の提供および利用体制の構築・運営 |
| ニ | 医療機器およびデジタル医療機器の開発・利用 |
| ホ | 核物質と原子力施設の安全な管理・運営 |
| ヘ | 犯罪捜査や逮捕業務のための生体認識情報(顔・指紋・虹彩・手のひらの静脈など)の分析・活用 |
| ト | 採用、融資審査など、個人の権利・義務関係に重大な影響を及ぼす判断・評価 |
| チ | 交通手段、交通施設、交通体系の主要な作動・運営 |
| リ | 公共サービスに必要な資格の確認・決定や費用徴収など、国家機関等(国、地方自治体、公共機関など)の意思決定 |
| ヌ | 幼児教育・初等教育・中等教育における幼児・児童・生徒の評価 |
| ル | その他、生命・身体の安全・基本権の保護に重大な影響を及ぼす領域として大統領令で定める領域 |
ル目に基づいて施行令が追加で定めた領域は、確認日時点の施行令には見当たりません。高影響の判断は、たとえるなら、2本の鍵が両方とも合って初めて開く金庫のようなものです。領域という鍵だけでも、影響という鍵だけでも開きません。そのため、危険なシステムであっても、法定領域の外で使われるのであれば、この条文でいう高影響には当たりません。ただし、組織内部のリスク管理(第5章)では、引き続き高い等級に分類される可能性があります。
高影響の事前検討と確認要請
第33条第1項は、人工知能事業者がAIやそれを用いた製品・サービスを提供する場合、高影響かどうか事前に検討しなければならないと定めます。検討は義務ですが、長官への確認要請は「必要な場合」に行える選択です。手続きは施行令第25条にあります。
- 要請:別紙様式の確認要請書に、製品・サービス概要書、学習用データ概要、活用過程と結果を確認できる資料などを添えて提出します。
- 判断要素:長官は法定領域での活用、リスクの影響・重大性・頻度と領域別の特殊性、事業者の事前検討結果、専門委員会の諮問結果などを考慮します。
- 回答:受領日から30日以内に回答します。複雑さなどで困難なら30日の範囲で1回延長でき、理由と期間を文書で知らせる必要があります。
- 再確認:回答に異議があれば、受領日から10日以内に再確認要請書を提出します。長官は専門委員会への諮問を経て30日以内に回答します。
専門委員会は50人以上で構成し、5人の小委員会を置くことができます。法第33条第3項は、長官が高影響人工知能の基準と例のガイドラインを作成・普及できるとしています。
高影響の事業者の責務
高影響人工知能やそれを使った製品・サービスを提供する事業者は、第34条第1項の措置を履行しなければなりません。
| 号 | 措置 | 施行令第27条との関係 |
|---|---|---|
| 1 | リスク管理方策の策定・運用 | リスク管理ポリシー・組織体制などの主要内容を掲示 |
| 2 | 技術的に可能な範囲で、最終結果、主要基準、学習用データ概要などの説明方策を策定・実施 | 主要内容を掲示 |
| 3 | 利用者保護方策の策定・運用 | 掲示 |
| 4 | 高影響人工知能への人による管理・監督 | 管理・監督者の氏名と連絡先を掲示 |
| 5 | 安全性・信頼性の確保措置を確認できる文書の作成・保管 | 履行根拠を文書で5年間保管(電子的保管を含む) |
| 6 | その他、委員会が審議・議決した事項 | — |
施行令第27条の詳細は次のとおりです。
- 掲示と営業秘密:第1〜4号の主要な内容を、事務所・事業場やWebサイトなどに掲示します。不正競争防止法上の営業秘密に該当する事項は、掲示の対象から除外できます。これは「すべてを非公開にできる」という意味ではなく、「営業秘密に当たる部分だけを除外できる」という意味です。
- 利用事業者の履行認定:開発事業者が第1〜3号の措置を履行したシステムを受けた利用事業者が、本来の目的・用途を著しく変えるなど重大な機能変更をしなければ、その措置を履行したとみなします。用途を大きく変えると認定は失われます。
- 資料要請:利用事業者は開発事業者に履行に必要な資料を求めることができ、開発事業者は協力に努める必要があります。
- 他法令による履行認定(法第34条第3項、施行令別表1):デジタル医療製品法上の品質管理、自動運転車の性能認証、融資審査での信用情報法上の説明義務の遵守と履行手続きの整備、金融消費者保護法上の責務などを履行すれば、対応する号の措置を履行したとみなします。個人情報保護法上の安全措置・プライバシーポリシー・影響評価・自動化された決定への対応などを履行した場合は、個人情報処理・保護について相当する措置を履行したとみなします。
第34条第2項は、長官が措置の具体的事項を告示し、遵守を勧告できると定めています。
影響評価と検証・認証
影響評価(第35条):高影響人工知能を使った製品・サービスを提供する場合、事前に人の基本権への影響を評価するよう努めなければなりません。2026年改正で、AI脆弱層の特性を評価に反映する旨が加わりました。国家機関等が高影響AI製品・サービスを利用しようとする場合は、影響評価を実施した製品・サービスを優先的に考慮しなければなりません。努力義務でも、公共調達では事実上の競争条件になりうるということです。
今回、努力義務の実施を見送るなら、単に「実施しない」ではなく、理由と再検討条件を記録してください。施行令第28条第1項の評価項目は7つです。影響を受けうる個人・集団の特定(脆弱層の特性を反映)、影響を受けうる基本権の類型、社会的・経済的影響の内容と範囲、利用の実態、定量・定性評価指標と結果の算出方法、リスクの予防・緩和・損失回復、改善が必要な場合の履行計画です。事業者は自ら、または第三者に依頼して評価できます。
AI脆弱層は施行令第1条の2が定めます。65歳以上の人、障害者、国民基礎生活保障法上の受給権者と次上位階層(準貧困層)、多文化家族の構成員、北朝鮮離脱住民など10区分です。
検証・認証(第30条):高影響人工知能を提供する事業者は、事前に検証・認証などを受けるよう努めなければならず、国家機関等はそれを受けた製品・サービスを優先的に考慮しなければなりません。ここでいう検証・認証は、民間団体などが自主的に行う活動です。
透明性の確保:告知と表示
第31条の義務は3つあり、対象が異なります。
| 項 | 対象 | 義務 | 施行令第23条 |
|---|---|---|---|
| ① 事前告知 | 高影響または生成AIを使った製品・サービスを提供しようとする場合 | 当該AIに基づく運用であることを利用者に事前に知らせる | 製品・契約書・取扱説明書・利用規約への記載、画面・端末表示、提供場所の掲示、長官の認める方法のいずれか |
| ② 出力物の表示 | 生成AIやそれを使った製品・サービスを提供する場合 | 出力物が生成AIによって生成された事実を表示 | 人が認識できる方法または機械可読の方法。機械可読なら、生成の事実を案内文・音声などで1回以上提供 |
| ③ 現実と区別しにくい出力物 | AIシステムで現実と区別しにくい架空の音声・画像・映像などを提供する場合 | 利用者が明確に認識できる方法で告知・表示。芸術的・創造的表現物は展示・鑑賞を妨げない方法も可 | 容易に確認できる方法。主な利用者の年齢や身体的・社会的条件を考慮 |
例外(施行令第23条第4項)は3つあり、該当する場合は義務の全部または一部を適用除外とすることができます。サービス名や画面文言などから高影響・生成AIの活用が明白な場合、事業者の内部業務のみに使う場合、長官が告示する場合です。確認日現在、第3の例外に当たる告示は国家法令情報センターで確認できませんでした。
政府の透明性指針は、出力物をサービス環境内だけで提供する場合と、ダウンロード・共有で外部に持ち出す場合を分けます。サービス内では画面の案内やロゴなど柔軟な表示を認め、対話型サービスでは利用前の案内や画面内ロゴを認めます。外部へ持ち出す出力物は、人が認識できるウォーターマークなどで表示するか、案内文・音声を提供したうえでメタデータなどの機械可読表示を適用します。現実と区別しにくい生成物(ディープフェイクなど)は、人が明確に認識できる方法で表示します。ただし芸術的・創造的表現物は、法第31条第3項後段により展示・鑑賞を妨げない方法にできます。
安全性確保の義務
第32条は、学習の累積演算量が施行令の基準以上の人工知能システムに適用されます。施行令第24条第1項は、次の3基準をすべて満たすシステムと定めます。
- 学習の累積演算量が10の26乗回の浮動小数点演算以上であること
- 現在活用されるAI技術の最先端技術を適用して構成・運用されていること
- リスクが生命、身体の安全、基本権に広範かつ重大な影響を及ぼすおそれがあること
対象事業者は、ライフサイクル全体のリスクを特定・評価・緩和し、安全上の事故を監視し、対応するリスク管理体制を備え、履行結果を長官に提出する必要があります。累積演算量の算定方法と履行方法は長官告示に委ねられていますが、確認日現在、国家法令情報センターには関連する告示が見当たりません。施行令第33条は、対象基準を2026年1月1日を基準に3年ごとに再検討するとしています。
この義務は大半の企業に関係しません。演算量の基準だけを超えても対象にならず、高影響人工知能とは別の制度であることを覚えてください。
国内代理人
国内に住所や営業所がない人工知能事業者で、施行令第29条の基準のいずれか1つに該当すれば、国内代理人を書面で指定し、長官に届け出る必要があります(第36条)。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 総売上 | 前年(法人は前事業年度)の売上高が1兆ウォン以上 |
| AIサービス売上 | AIサービス部門の前年売上高が100億ウォン以上 |
| 利用者数 | 前年末時点の直前3か月間の国内利用者が1日平均100万人以上 |
| 制裁歴 | 第43条第1項第3号(中止・是正命令の不履行)による過料を受けた事実 |
売上は前年(前事業年度)の平均為替レートでウォン換算して判断します。国内代理人は履行結果の提出、高影響の確認要請、責務履行に必要な支援(文書の最新性・正確性の点検を含む)を代行します。国内に住所または営業所が必要で、この業務に関して代理人が法に違反すれば、指定事業者がその行為をしたとみなします。
執行:事実調査、是正命令、過料、指導期間
事実調査(第40条):長官は、第31条第2・3項(表示)、第32条第1・2項(安全性)、第34条第1項(高影響の責務)の違反を発見した場合、違反の疑いを認知した場合、通報・苦情を受けた場合、資料の提出要求や調査ができ、事務所への立入調査も可能です。違反が認められれば、中止や是正に必要な措置を命じることができます。
過料(第43条)は3,000万ウォン以下で、対象となる違反事由は次の3つに限られます。施行令別表2の金額は次のとおりです(単位:万ウォン)。
| 違反行為 | 1回目 | 2回目 | 3回目以降 |
|---|---|---|---|
| 第31条第1項の事前告知不履行 | 500 | 1,000 | 1,500 |
| 第36条第1項の国内代理人未指定 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
| 第40条第3項の中止・是正命令不履行 | 1,000 | 2,000 | 3,000 |
違反回数は過去2年間に同じ違反で過料を受けた場合に数えます。中小企業・ベンチャー企業・小規模事業者、軽微な不注意や誤り、是正努力が認められる場合などは2分の1の範囲で減額できます(滞納者を除く)。重大な違反や6か月以上続く違反は2分の1の範囲で増額できますが、法定上限は超えられません。
出力物の表示義務(第31条第2・3項)違反は、それ自体では過料事由ではありません。事実調査を経て是正命令を受け、それに従わないと過料事由になります。
参考
指導期間は政府方針です。 科学技術情報通信部は法施行に合わせ、事実調査・過料に関して最低1年以上の指導期間を設け、事実調査は人命に関わる事故や人権侵害など重大な社会問題が起きた極めて例外的な場合に限ると表明しました(2026年1月21日発表)。法令の条文ではなく、確認日現在、終了日も未発表です。指導期間でも義務自体は施行中です。
サービスが義務の対象かを判断する
本章のスキル目標は「サービスが義務の対象かを判断する」です。機能ごとに次の手順を繰り返します。
- 機能の分解:利用者から見える機能単位に分けます。1つのアプリに相談チャットボット、推奨、画像生成があれば3行です。
- AI該当性:各機能が人工知能システムか、生成型かを判断します。
- 地位:自社が開発事業者、利用事業者、提供せず道具としてのみ使う利用者のどれかを定めます。
- 適用範囲:国内市場・利用者への影響と、国防・安全保障の除外該当性を確認します。
- 透明性:生成型または高影響に当たる場合には、第31条第1項の事前告知を行います。生成型に当たる場合には第2項の表示を、現実と区別することが難しい出力である場合には第3項を適用します。そのうえで、施行令第23条第4項に定められた例外に該当するかを検討します。
- 高影響:法定領域か、重大な影響のおそれがあるか、事前検討を記録します。曖昧なら確認要請を検討します。該当すれば第34条の責務、第35条の影響評価の努力、別表1の認定可否を整理します。
- 安全性:施行令第24条の3基準をすべて満たすか確認します。
- 国内代理人:国外事業者なら施行令第29条を確認します。
- 不確実性の分離:未決の項目は「法務レビュー」「長官への確認要請を検討」「告示の確定待ち」に分けて別記します。
さらに深く
機能単位の分解と変更管理
義務の判断は、リリース時に一度行えば終わりではありません。同じモデルでも用途を変えれば結論が変わります。社内文書要約用のモデルを顧客の融資相談に使えば、内部業務の例外がなくなり、法定領域に入る可能性もあります。開発事業者が責務を履行した高影響システムを使う利用事業者が本来の用途を著しく変えると、施行令第27条第3項の履行認定も失われます。
そのため、判断表には、あらかじめ「結論を変える変更」を書き出しておくとよいでしょう。代表的なのは、対象利用者の変更(成人から子どもへ)、出力形式の変更(テキストから実写風の映像へ)、決定方式の変更(参考資料から自動的な決定へ)、提供経路の変更(サービス内での利用から外部への持ち出しへ)です。このような変更が企画書に現れたら、判断表をもう一度開いて確認します。
他の法律と重なるとき
1つのAIサービスに複数の法律が同時に適用されることはよくあります。融資審査AIなら、人工知能基本法の高影響の責務、信用情報法の説明義務、個人情報保護法の自動化された決定への対応が重なります。施行令別表1は、重複を減らすため他法令による一部措置を本法上の履行と認定します。
ただし認定は号ごとです。融資審査で信用情報法第35条の2の説明義務を守り、第36条の2第1項の履行手続きを備えれば第2号(説明方策)、金融消費者保護法上の責務を履行すれば第3号(利用者保護方策)を履行したとみなしますが、第1・4号まで自動的に解決しません。履行表の号ごとに認定根拠または別途の履行計画を書けば、未対応箇所が見えます。
実務の場面
バダロモビリティ:シャトル配車AIと相談チャットボット
広域通勤シャトルを運営する「バダロモビリティ」は2つのAIを準備しています。1つは交通状況と予約需要から配車間隔・経路を自動調整するシステム、もう1つは予約・返金の問い合わせに答えるチャットボットです。配車は自社開発、チャットボットは海外開発元のモデルをAPIで使います。
コンプライアンス担当者は2行に分けました。配車では自社が開発事業者かつ提供者で、乗客や道路利用者の安全に影響しうるため、第2条第4号チ(交通手段の主要な作動・運営)に該当する可能性があります。論点は「運転は人が行うが、配車・経路の決定が『主要な作動』か」でした。
チーム内では「自動運転ではないので高影響には当たらない」という意見が出ました。しかし、チ目は交通手段や交通体系の主要な作動・運営を広く挙げているため、その意見は根拠になりませんでした。一方、「交通に関わるなら必ず高影響に当たる」という意見も、重大な影響という要件を見落としているため、受け入れませんでした。担当者は事前検討の記録を残し、長官への確認要請と、高影響に該当する場合に備えたリスク管理方策、管理・監督者の指定案を準備しました。施行令別表1にある自動運転車の認証による履行認定は、この会社の車両には該当しないため、別途の履行が必要であると記録しました。
チャットボットでは自社は利用事業者です。相談画面への遷移時にAI相談と知らせ(事前告知)、会話画面にAI表示を設け(サービス内の出力表示)、返金は相談員が確定する方式にしました。判断表末尾には「配車:回答まで高影響に準じて準備」「指導期間でも義務は施行中」と記されました。
ハラムコマース:1社で3つの結論
ファッション通販サイト「ハラムコマース」には、3つのAI機能があります。出品者が写真をアップロードすると、生成AIが商品説明の文章を作成して掲載します。また、顧客が自分の写真をアップロードすると、その服を着た姿を実写のように合成して表示します。顧客は、その画像をレビューに添付することもできます。さらに、人事チームは、外部のHRソリューションが提供する書類評価ツールを契約し、自社の採用に使っています。
法務担当者は、3つの機能をそれぞれ別に判断しました。商品説明の生成は、会社が出品者に提供する生成AIサービスなので、出品者向けの画面で事前告知を行い、掲載する文章に表示を付ける方法を検討しました。出品者が文章を修正して使うことが多いという反論もありました。しかし、「修正したら表示を外す」という規則を会社が独自に定めることはせず、ガイドラインと法務担当者のレビューに基づいて基準を決めることにしました。
仮想試着は現実と区別しにくい画像を作りうるため、第31条第3項が適用される可能性があります。結果画像に人が明確に認識できる表示を入れ、レビューで他の利用者が見る際も消えないようにしました。顔写真を扱うため、第3章の個人情報の検討も始めました。
最も長く議論したのは、採用ツールでした。ツールを作成して提供しているのはHRソリューション会社で、ハラムコマースは、それを自社の採用に使う側です。担当者は、第34条の責務が高影響AIを提供する事業者に課されることを確認し、契約前にソリューション会社へ事前検討の結果と責務の履行を示す資料を求めました。ハラムコマースが応募者に対して直接負う義務も、別に整理しました。人による実質的な関与がないまま書類選考での不合格が決まるのであれば、個人情報保護法第37条の2の自動化された決定に当たります。そのため、人事担当者がAIの点数を形式的に確認するだけにとどまらず、他の評価要素と併せて検討し、結果を変更できる手続きに改めました。バリューチェーンの表に従えば、ハラムコマースはツールを自社の業務に使う利用者に近い立場です。しかし、高影響の責務についても同じ結論になるかは公式な解釈がないため、「法務レビューの対象」として残しました。
間違えやすいポイント
- 「高影響でなければ本法の義務はない」 第31条の事前告知と表示は生成AIにも適用されます。
- 「モデル開発会社だけに義務がある」 他者のモデルでサービスを提供する利用事業者も人工知能事業者です。
- 「法定領域なら即、高影響だ」 領域に加え、重大な影響・危険のおそれが必要です。
- 「高影響なら影響評価は必須だ」 文言は「努めなければならない」です。ただし国家機関等は評価済み製品を優先考慮します。
- 「表示義務に違反すれば直ちに過料だ」 事由は事前告知不履行、国内代理人未指定、中止・是正命令不履行の3つです。
- 「営業秘密があれば責務の内容を掲示しなくてよい」 除外できるのは営業秘密に該当する事項だけです。
- 「10の26乗の演算量を超えれば安全性確保義務の対象だ」 最先端技術、広範かつ重大なリスクのおそれを含む3基準すべてが必要です。
- 「指導期間なのでまだ義務はない」 指導期間は事実調査・過料の運用方針であり、義務条項は施行中です。
ひと目でわかるまとめ
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 施行 | 2026年1月22日(制定法律第20676号)。現行は法律第21311号(2026年7月21日施行)、施行令は大統領令第36580号(2026年8月20日施行) |
| 事業者 | 開発事業者と利用事業者。道具として使う利用者は透明性義務の対象外(ガイドライン) |
| 適用範囲 | 国外行為も国内への影響があれば適用。国防・安全保障のみを目的とする指定業務は除外 |
| 高影響 | 領域(イ〜ル)+重大な影響・危険のおそれ。事前検討は義務、確認要請は任意(30日、1回30日延長、異議は10日以内) |
| 責務 | 第34条の6号。第1〜4号の主要内容を掲示(営業秘密は除外可)、根拠文書5年保管、利用事業者の履行認定、別表1 |
| 影響評価 | 努力義務、7項目、脆弱層を反映、国家機関等は優先考慮 |
| 透明性 | ①事前告知(高影響・生成AI)②出力表示(生成AI)③現実と区別しにくい出力の明確な告知・表示。例外3つ |
| 安全性 | 10の26乗+最先端+広範・重大なリスク、3基準すべて |
| 国内代理人 | 売上1兆ウォン、AI売上100億ウォン、1日平均100万人、是正命令不履行の過料歴のいずれか |
| 制裁 | 過料3,000万ウォン以下、事由3つ。指導期間は政府方針、終了日未発表 |
公式ドキュメントで確認する
- 国家法令情報センター — 人工知能基本法:現行本文、附則、沿革。第2条、第4条、第31〜36条、第40条、第43条を原文で読む。
- 国家法令情報センター — 人工知能基本法施行令:第1条の2、第2条、第23〜29条、別表1・2、別紙様式。
- 韓国政策ブリーフィング — 「人工知能基本法」22日施行:施行案内と指導期間の方針、支援デスク。
- 韓国政策ブリーフィング — 「人工知能の透明性確保に関する案内指針(ガイドライン)」公開:義務の主体、サービス内と外部持ち出しの表示基準。
- 科学技術情報通信部:最新のガイドライン・告示、告知。
セルフチェック
2-1. 人工知能基本法の施行日と制定法律番号を書き、2026年1月改正法で条項により施行日が異なった部分を説明してください。
2-2. 法律、施行令、告示、ガイドラインを拘束力で区別し、確認日現在で状況が不確かな階層を書いてください。
2-3. 外部のモデルをAPI経由で利用し、文書の下書きを作成する機能を一般消費者に販売する会社があるとします。この会社が第31条に基づいて負う義務を、項ごとに整理してください。該当しない項がある場合には、その理由も書いてください。
2-4. 高影響人工知能の2要件と、法定領域でも高影響でない場合を1文で説明してください。
2-5. 高影響かどうかの確認を求めた事業者が回答に同意しない場合の手続きを、期限とともに順に書いてください。
2-6. 施行令第27条で掲示が必要な4事項と文書保管期間を書き、営業秘密を理由にできること・できないことを区別してください。
2-7. 出力表示を守らない事業者が過料を受けるまでの執行段階を、条文とともに書いてください。
2-8. (設計)生成AIの機能を2つと、法定領域に該当する可能性のある機能を1つ持つ架空のサービスを設定してください。そのうえで、本章で示した9段階の判断手順を適用し、判断表を作成してください。不確実な項目は、他の項目とは分けて記載してください。
実習課題
実習
機能別AI基本法義務判断表(60分)
- サービス(架空でもよい)のAI機能を利用者に見える単位で列挙する。
- AI該当性、生成型か、自社の地位(開発・利用事業者・利用者)、国外事業者かを書く。
- 第31条①②③、第33〜35条、第32条、第36条の該当性、根拠条文、施行令の条項を書く。
- 未決の項目を「法務レビュー」「確認要請を検討」「告示の確定待ち」に分け、別にまとめる。
完了基準: 全機能に条文根拠があり、不確実な項目が別リストになっており、表の冒頭に「学習用。法的判断に代わるものではない」とある。
実習
告知・表示の設計案を作る(45分)
- 生成AI機能を1つ選び、利用者の行程を登録、初回利用、結果確認、ダウンロード・共有の4段階に分ける。
- 各段階で事前告知と出力表示をどこにどう置くかを書く(画面文言、ロゴ、ウォーターマーク、メタデータ)。
- 現実と区別しにくい出力の可能性を判断し、該当すれば主な利用者の年齢・条件を考慮した表示を書く。
- 施行令第23条第4項の例外と判断する部分があれば根拠を書く。
完了基準: 4段階すべてに告知・表示方法があり、サービス内と外部持ち出しを区別し、例外を適用した部分に根拠が付いている。