第3章 個人情報とAI

学習目標

  • AIのライフサイクル(収集、前処理、学習、推論、記録、廃棄)の各段階を個人情報保護法の「処理」と捉え、目的と根拠を結び付ける。
  • 収集・利用の根拠、追加的利用、公開個人情報の正当な利益を比較し、学習データの処理根拠を選ぶ。
  • センシティブ情報・固有識別情報、仮名情報と匿名情報の要件と禁止事項を説明する。
  • 委託、第三者提供、国外移転を外部AIサービスの利用に適用する。
  • 自動化された決定の拒否・説明要求と公開義務を、対応手続きとして設計する。

はじめに

ある会社の顧客センターのチーム長が「相談記録が数年分蓄積されているので、これで自社専用の相談モデルを学習させましょう。もともと自社のデータですから」と提案したとします。この言葉には、個人情報保護法が問うことがすべて隠れています。記録は何の目的で集めたのか、学習はその目的の範囲内か、健康情報や住民登録番号が混じっていないか、外部の学習委託先はデータをどう扱うか、サーバーはどの国にあるか、そして完成したモデルが人を介さず顧客に関する決定を行うか、という問いです。

「自社のデータ」というのは所有についての言葉であり、個人情報保護法は処理についての言葉で考えます。情報主体が預けた情報を、どのような目的で、どのような根拠に基づき、どのような保護の下で処理するかが、本章全体の中心となります。

2026年9月11日施行の改正法と改正施行令による変更も、本章に反映しています。AIのライフサイクルをたどり、まず処理の原則と根拠を定め、追加的利用と公開個人情報、センシティブ情報、仮名・匿名情報を扱います。続いて、外部AIを利用する際の委託・第三者提供・国外移転、自動化された決定、情報主体の権利と漏えい通知を読み、最後にすべてを1つの判断手順にまとめます。

重要な概念

AIのライフサイクルから見る「処理」

個人情報保護法における処理には、収集、生成、連携、連動、記録、保存、保有、加工、編集、検索、出力、訂正、復旧、利用、提供、公開、廃棄、およびこれらに類似する行為がすべて含まれます(第2条第2号)。AIを扱う際のあらゆる段階が、この処理に当たります。

段階 AIでの姿 処理行為 確認すること
収集 サービス利用記録、Web公開資料、提携先データ 収集 収集目的と根拠
前処理 重複除去、ラベリング、仮名処理 加工、編集 最小化、センシティブ情報の除去
学習 事前学習、ファインチューニング、埋め込み生成 利用、生成 当初の目的内か
推論 プロンプト入力、社内文書検索との組み合わせ 利用、検索、出力 入力範囲と外部送信
記録 会話ログ、品質評価記録 記録、保存、保有 保有期間とアクセス権限
廃棄 ログ削除、データセット廃棄、モデル交換 廃棄 復元不能な廃棄、他法令による保管

個人情報保護委員会の「生成AIの開発・活用のための個人情報処理案内書」(2025年8月)は、ライフサイクルを目的設定、戦略策定、学習・開発、適用・管理の4段階に分け、個人情報保護責任者(CPO)中心のガバナンスを勧めます。上表は、その流れを実務行為ごとに細分化したものです。

処理の原則

第3条は8つの原則を定めます。AIと特に関係するのは次の点です。

  • 処理目的を明確にし、必要最小限を適法かつ正当に収集する(第1項)。
  • 目的に必要な範囲で処理し、目的外に活用しない(第2項)。
  • 目的に必要な範囲で正確性・完全性・最新性を保証する(第3項)。
  • リスクの程度を考慮して安全に管理し、プライバシーポリシーなどを公開して情報主体の権利を保障する(第4・5項)。
  • プライバシー侵害を最小限にする方法で処理する(第6項)。
  • 匿名または仮名でも目的を達成できるなら、匿名処理が可能な場合は匿名で、それが不可能な場合は仮名情報として処理する(第7項)。

第7項は、学習データの設計に取り組む際の出発点となります。「モデルの性能のために加工前の元データが必要だ」と主張するだけでは、根拠にはなりません。まず、匿名情報や仮名情報では学習の目的を達成できないという説明を示す必要があります。

処理根拠を選ぶ

個人情報を収集し、その収集目的の範囲内で利用することができる根拠は、第15条第1項に定める7つです。情報主体の同意、法律の特別な規定または法令上の義務の遵守、公共機関の所管業務の遂行、契約の締結・履行、明白かつ切迫した生命・身体・財産の利益、個人情報処理者の正当な利益、公衆衛生などの緊急の必要です。このうち正当な利益は、情報主体の権利よりも明らかに優先し、相当な関連性があり、かつ合理的な範囲を超えない場合に限られます。

AIの段階ごとに根拠が異なることもあります。

目的 よく検討する根拠 注意
顧客の依頼に答える推論 契約の締結・履行 回答に必要な範囲だけ入力
同一サービスの品質改善学習 当初の目的内、追加的利用 目的との関連性の判断を記録
新サービス用モデルの学習 同意、仮名情報の特例 当初と異なる目的
Web公開資料による学習 正当な利益 委員会の案内書の3要件
法令上の義務の履行(例:不正取引検知) 法令上の義務 該当法令の範囲

同意は万能の鍵ではありません。取得する際には目的、項目、保有期間、拒否権と不利益を知らせる必要があり(第15条第2項)、同意を拒否できなければならず、範囲が変われば再取得が必要です。大規模な学習データでは、後から同意を得ることが事実上不可能な場合も多いため、他の根拠も併せて検討します。また、必要最小限以外の収集(学習用の追加収集など)に同意しないことを理由に、サービスの提供を拒否することもできません(第16条第3項)。

追加的利用と目的外利用

追加的利用(第15条第3項)は、当初の収集目的と合理的に関連する範囲で、情報主体への不利益、暗号化などの安全性確保措置の有無を考慮し、同意なしに利用することです。施行令第14条の2は考慮事項を4つ定めます。

  1. 当初の収集目的との関連性
  2. 収集の事情や処理慣行から追加的利用を予測できるか
  3. 情報主体の利益を不当に侵害するか
  4. 仮名処理・暗号化などの安全性確保措置を行ったか

追加的利用が継続して生じる場合、判断基準をプライバシーポリシーで公開し、CPOがその基準に従って利用されているか点検する必要があります(施行令第14条の2第2項)。定期的に再学習するモデルは、まさにこうした場合に当たります。

目的外利用(第18条)は、これとは異なります。収集目的の範囲を超えた利用は原則禁止され、別途同意や他の法律の特別規定など、例外に該当する必要があります。たとえるなら、追加的利用は同じ家の部屋を別の用途に使うこと、目的外利用は別の家へ引っ越すことです。部屋を変える場合でも、家族が驚かない範囲(予測可能性)にとどまる必要があります。

公開された個人情報と正当な利益

Web上に公開されている文章だからといって、何の制限もなく学習に使えるわけではありません。公開されている情報であっても、個人を識別できるのであれば個人情報に当たります。個人情報保護委員会の「人工知能(AI)の開発・サービスのための公開された個人情報の処理に関する手引き」(2024年7月)は、公開された個人情報をAIの学習に使う根拠として、第15条の正当な利益に関する規定を検討し、次の3つの要件を示しています。

  1. 目的の正当性:AI開発の目的は正当か。
  2. 処理の必要性:その目的に公開個人情報の処理が必要で、相当な関連性があり、合理的範囲内か。
  3. 具体的な利益衡量:処理者の正当な利益が情報主体の権利に明確に優越するか。

案内書は、技術的・管理的な安全措置と情報主体の権利保障策も併せて示し、企業が特性に合う措置の組み合わせを自ら選べると説明しています。法令ではなく解釈・勧告の文書なので、判断メモには「案内書を参考にした利益衡量」と、その性格を明記します。

センシティブ情報、固有識別情報、住民登録番号

センシティブ情報(第23条)とは、思想・信条、労働組合や政党への加入・脱退、政治的見解、健康、性生活などに関する情報と、施行令で定められた情報です。施行令第18条は、遺伝情報、犯罪経歴資料、人種・民族に関する情報に加え、個人の身体的・生理的・行動的な特徴に関する情報であって、特定の個人を識別する目的で、一定の技術的手段を用いて生成された情報を挙げています。顔写真そのものではなく、個人を識別する目的で抽出された顔の特徴値が、この要件に該当します。

センシティブ情報は原則として処理できません。他の処理に関する同意とは別途に同意を得た場合、または法令がその処理を要求もしくは許容する場合に限って処理できます。また、漏えいなどが生じないよう、安全性を確保するための措置を講じる必要があります。

固有識別情報(第24条)は、法令に基づき、個人を一意に区別するために付与された識別情報です。住民登録番号(第24条の2)の処理は、それよりもさらに限定されています。法律・大統領令などが具体的に処理を要求もしくは許容する場合、切迫した生命・身体・財産の利益のために明らかに必要な場合、またはこれらに準ずる場合として個人情報保護委員会が告示した場合に限り、処理できます。保管する際には暗号化する必要もあります。相談の会話や自由記述の入力欄には、顧客が自らこのような情報を書き込むことが少なくありません。そのため、学習前にパターン検知によって除去する段階を設ける必要があります。

仮名情報の特例

仮名処理とは、個人情報の一部を削除したり、一部または全部を別のものに置き換えたりするなどの方法で、追加の情報がなければ特定の個人を識別できないように処理することです(第2条第1号の2)。このようにして作成した仮名情報も個人情報に当たります(第2条第1号ハ目)。たとえるなら、仮名情報は、鍵を別の場所に保管している、鍵のかかった箱です。一方、匿名情報は、鍵そのものが存在しない箱です。

条文 内容
第28条の2 統計作成、科学的研究、公益的記録保存などのため、同意なく仮名情報を処理可能。第三者提供時、特定個人の識別に使える情報の包含は禁止
第2条第8号 科学的研究:技術の開発・実証、基礎研究、応用研究、民間投資研究など、科学的方法を適用する研究
第28条の3 異なる処理者の仮名情報の結合は指定専門機関が実施。外部持ち出しには仮名・匿名処理後に専門機関長の承認
第28条の4 追加情報の分離保管などの安全措置、処理期間の別途設定可、処理記録の作成・保管(廃棄後3年以上)
施行令第29条の5 仮名情報と追加情報の分離保管、権限の分離、記録項目(目的、項目、利用履歴、提供先、処理期間など)
第28条の5 特定個人の識別を目的とする処理禁止。識別可能な情報が生じたら直ちに中止し、遅滞なく回収・廃棄
第28条の7 収集元の通知、利用・提供履歴の通知、事業譲渡の通知、漏えい通知(第34条第1・2項)、閲覧、個人情報の送信要求(データポータビリティ権)、訂正・削除、処理停止の条項を適用しない

AI開発は「技術の開発・実証」という科学的研究の定義に含まれうるため、仮名情報の特例がよく検討されます。ただし、この特例がセンシティブ情報に関する別途要件までなくすかは、別に検討する必要があります。学習済みモデルや出力から特定の個人を再び識別できるようになれば、第28条の5の中止・廃棄義務が働きます。

匿名情報と再識別リスク

時間・費用・技術などを合理的に考慮したとき、他の情報を使用しても、もはや個人を識別できない情報には、この法律は適用されません(第58条の2)。これが匿名情報です。判断の基準は「今、この会社が個人を識別できるか」ではありません。合理的に入手可能な他の情報まで考慮したうえで、個人を識別できるかどうかです。これは、第2条第1号ロ目における、他の情報との照合が容易かどうかを判断する際と同じ考え方です。

AIでは再識別リスクが2か所で生じます。データセットの段階では、まれな属性の組み合わせ(年齢、地域、職業)が個人を示すことがあります。モデルの段階では、学習した文章をそのまま再現することがあります。合成データや統計的ノイズの追加はリスクを減らす手段ですが、出力が匿名情報かどうかは、手法の名前ではなく再識別可能性の評価で判断する必要があります。

委託、第三者提供、ベンダーの独自利用

外部AIに個人情報を入力する場合は、まず関係を定めます。

関係 誰の目的か 法的要件
業務委託(第26条) 委託者(自社)の業務を代行 目的外処理禁止・保護措置などを含む文書、委託業務と受託者の公開、受託者の教育・監督。受託範囲外の利用・提供は禁止、再委託は委託者の同意が必要
第三者提供(第17条) 受領者が自己目的で利用 同意または法定根拠。同意時に受領者・目的・項目・期間・拒否権を告知
ベンダーの独自利用 モデル改善などベンダーの自己目的 委託範囲を超えるため、委託だけでは説明できない

たとえるなら、委託は服をクリーニング店に預けること、第三者提供は服を他者に渡すことです。店が預かった服を自分の服のように着ていれば、もはや預かりではありません。そのため、第1章の「学習不使用」の約束とDPAを確認します。ベンダーが顧客データを自己のモデル学習に使わないという約束があってこそ、委託関係として説明できます。受託者にも収集・利用、センシティブ情報、国外移転など多くの条文が準用されるので(第26条第8項)、受託者も同じ基準で処理する必要があります。

国外移転

個人情報を国外に提供(国外から閲覧・照会される場合を含む)・処理委託・保管することは、すべて移転です(第28条の8第1項)。原則禁止で、次のいずれかが必要です。

  1. 情報主体から国外移転の別途同意を得た場合
  2. 法律、条約、国際協定に特別規定がある場合
  3. 情報主体との契約の締結・履行に処理委託・保管が必要で、移転項目、国・時期・方法、受領者、利用目的・保有期間、拒否方法などをプライバシーポリシーで公開、またはメールなどで通知した場合
  4. 受領者が委員会告示の認証を取得し、必要な全措置を講じた場合
  5. 移転先の国・国際機関の保護水準を、委員会が本法と実質的に同等と認めた場合

国外移転では、安全性確保、苦情処理・紛争解決などの保護措置を行い、受領者とあらかじめ協議して契約に反映する必要があります(施行令第29条の10)。受領者が第三国へ再移転する場合にも、同じ規定が準用されます(第28条の11)。委員会は、違反や顕著な被害のおそれがあれば移転中止を命じることができ、処理者は7日以内に異議を申し立てられます(第28条の9)。

第1章のように「国内保存」と「国内処理」は別です。海外で推論するAPIなら、保存場所にかかわらず国外処理委託が生じえます。

自動化された決定

情報主体は、完全に自動化されたシステム(AI技術の適用を含む)による個人情報処理で行われる決定が、自身の権利・義務に重大な影響を及ぼす場合、拒否できます(第37条の2第1項)。ただし、同意、法律の特別規定・法令上の義務、契約の締結・履行による決定には拒否権は認められません。韓国の行政基本法第20条に基づく行政庁による自動的処分は、本条の自動化された決定から除外されます。

拒否権が認められない場合でも説明などを要求できます(第2項)。処理者は正当な理由がない限り、拒否に対しては決定の不適用または人の関与による再処理を、説明要求に対しては説明などの必要な措置を行います(第3項)。基準と手続き、個人情報の処理方法は容易に確認できるよう公開します(第4項)。

施行令 内容
第44条の2 決定基準・処理過程の説明、意見(個人情報の追加など)の反映可否の検討を要求できる
第44条の3 拒否時は不適用または人による再処理後に結果を通知。説明要求には、結果、主要な個人情報の類型、その影響など主要基準、処理手続きを含む簡潔で意味のある説明。30日以内、正当な理由があれば2回まで各30日延長
第44条の4 決定が行われる事実・目的・対象範囲、主要な個人情報類型と決定の関係、考慮事項と手続き、センシティブ情報・14歳未満の情報を処理する目的と項目、拒否・説明要求方法をサイトなどで公開

「完全に自動化された」が要点です。人が実質的にレビューし変更権限を持てば本条の決定でない可能性がありますが、形式的確認は実質的介入ではありません。委員会告示「自動化された決定に対する個人情報処理者の措置基準」の別表も、人事権者がシステムの点数だけを形式的に確認して不合格を決める例を挙げます(第4章の自動化バイアス参照)。説明要求と基準公開は、重大な影響がない自動化された決定にも適用されます。人工知能基本法第3条第2項も、最終結果の導出に使う主要基準・原理について、影響を受ける者が技術的・合理的に可能な範囲で明確で意味のある説明を受けられるべきとの原則を置いています。

情報主体の権利、漏えい通知、影響評価

AIシステムであっても、閲覧(第35条)、訂正・削除(第36条)、処理停止(第37条)の要求に応じなければなりません。また、施行令が定める対象の処理者であれば、要件を満たした情報の送信要求(第35条の2)にも対応しなければなりません。データは、元のデータの保存先、検索インデックス、会話ログ、学習データセット、バックアップに分散しています。そのため、要求を受けた際に、どの保存先まで調べるのかをあらかじめ決めておく必要があります。学習が終わったモデルの中から、特定の人の情報だけを削除することは、技術的に難しい場合があります。学習データセットからの削除、再学習の周期、出力段階での遮断を組み合わせ、どのように対応するのかを説明できるようにしておく必要があります。

漏えい通知(第34条)は、2026年の改正で強化されました。漏えい等を知った場合には、遅滞なく情報主体に知らせなければなりません。施行令では72時間以内とされています。対象が1,000人以上の場合、センシティブ情報・固有識別情報の漏えいの場合、外部からの不正アクセスによる漏えいの場合には、72時間以内に個人情報保護委員会または韓国インターネット振興院へ届け出ます。新設された第34条第2項は、漏えい等の可能性があるだけでも通知するよう求めています。例えば、処理システムへの不正アクセスがあり、漏えいが疑われるものの、どの情報主体の情報なのかを特定することが難しい場合です。この場合、そのアクセスを知った時から72時間以内に、漏えいの可能性があるすべての情報主体に知らせなければなりません。連絡先が分からないなどの正当な理由があれば、Webサイトに30日以上掲示することで通知に代えることができます。事実が確定したら、追加で知らせます(施行令第39条の2・第39条の3)。改正された規定は、2026年9月11日以降に漏えい等を知った場合から適用されます。

個人情報影響評価(第33条)は公共機関の義務です。5万人以上のセンシティブ情報・固有識別情報のファイル、連係結果50万人以上のファイル、100万人以上のファイルなどの構築・変更時に指定評価機関に委託し、結果を委員会に提出します(施行令第35条)。民間企業は同じ枠組みを自主点検に使えます。

AIの学習・推論データの適法な処理を判断する

本章のスキル目標は「AIの学習・推論に使うデータが適法に処理されているかを判断する」です。次の順に検討メモを書きます。

  1. データ一覧:データセット名、項目、情報主体の範囲、規模、出所、当初の収集目的と根拠を書きます。
  2. 新しい目的:学習か推論か、同一サービスの改善か新サービスかを書きます。
  3. 特殊情報の除去:センシティブ情報、固有識別情報、住民登録番号、子どもの情報の混入を確認し、除去または別途根拠を定めます。
  4. 最小化:匿名・仮名で目的を達成できるか、まず検討します(第3条第7項)。
  5. 根拠の選択:当初の目的内、追加的利用(4考慮事項)、仮名情報特例、正当な利益(公開情報)、新たな同意のどれを使うかと理由を書きます。
  6. 関係と所在地:外部サービスなら委託か提供か、国外移転か、根拠と公開事項を書きます。
  7. 結果の使用:個人についての完全自動決定に使うか確認し、使うなら第37条の2への対応を設計します。
  8. 権利と廃棄:閲覧・削除要求の対応範囲、保有期間、廃棄方法を定めます。
  9. 表示:冒頭に「法的レビュー前の草案」と作成日を記します。

さらに深く

社内検索とRAG:権限と削除も連動させる

**検索拡張生成(RAG、Retrieval-Augmented Generation)**は、質問に関連する社内文書を探してモデルに渡し、回答を作る方式です。学習しないので個人情報の問題はないと思いがちですが、新しいストレージ(検索インデックス、埋め込みベクトル)と照会経路が生まれます。

第1に、権限も連動させる必要があります。原本文書のアクセス権限がインデックス作成時に失われたり、異動・退職で権限が変わってもインデックスがそのままだったりすると、人事記録を見る権限のない従業員もAIへの質問で内容を得られます。MicrosoftはCopilotが最低限閲覧権限のあるデータだけを示すと説明していますが、逆にいえば原本の権限が乱れていれば、その乱れがそのまま表れます。第2に、削除も連動させる必要があります。原本から消した文書がインデックスやキャッシュに残れば、削除要求に対応したとはいえません。原本の変更が反映される周期と確認方法を定めてください。

モデル内の個人情報

学習済みのモデルは、学習データの一部をほぼそのまま再現することがあります。例えば、データ中にまれにしか現れない電話番号や文章です。対応は3つの段階に分けて考えます。学習前には、識別子を取り除き、データの重複を減らします。学習中には、統計的なノイズを加える差分プライバシー(differential privacy)など、プライバシーを保護する学習手法の採用を検討します。出力段階では、住民登録番号や電話番号などのパターンを遮断し、情報を抽出しようとする試みに対する点検を定期的に行います。

仮名情報で学習したモデルが識別可能な情報を出せば、第28条の5第2項の中止・回収・廃棄義務が働きうるため、ロールバックや再学習などモデル単位の計画を事前に用意してください。

2026年改正のAI運用への影響

2026年9月11日に施行された改正法は、AIを運用する組織に4つの変化をもたらします。第1に、漏えいの可能性に関する通知が新設されました。「まだ確認中である」という理由で通知を先延ばしにはできないため、会話ログの保存先に対する侵害対応の手続きに、72時間の期限管理を組み込む必要があります。第2に、事業主や代表者は最終責任者として、専門人材や予算の支援など、全体を統括する管理措置を講じなければなりません(第30条の3)。第3に、一定規模以上の処理者は、個人情報保護責任者の指定・変更・解任に際して、取締役会の決議を経て、個人情報保護委員会に届け出なければなりません(第31条第3項。対象となる基準は施行令で規定)。第4に、課徴金の賦課処分を受けた日から3年が経過する前に同じ号の違反を再び行った場合で、いずれの違反にも故意または重大な過失がある場合や、故意または重大な過失による違反で被害を受けた人が1,000万人以上に及ぶ場合などには、総売上高の100分の10まで課徴金を課すことができるようになりました(第64条の2第2項)。

実務の場面

モラム精密:社内人事アシスタントを作るとき

従業員1,800人規模の中堅メーカー「モラム精密」は、従業員が休暇規程、給与明細、福利厚生について質問すると答える社内AIアシスタントを作ろうとしています。人事規程集とともに、従業員ごとの休暇の利用記録、給与情報、傷病休暇の記録を検索インデックスに入れ、海外にあるクラウドリージョンのモデルAPIを使って回答を生成する計画です。

個人情報保護の担当者は、まずデータを種類別に分けました。規程集は個人情報ではありません。休暇や給与の記録は、雇用契約を履行するために処理する個人情報です。本人の質問に答えることは、当初の目的の範囲内にあると説明できます。問題となったのは傷病休暇の記録でした。病名が記された記録は、健康に関するセンシティブ情報に当たります。担当者は、傷病休暇については「日数」だけをインデックスに入れ、診断内容は入れないことにしました。質問への回答に診断名は必要ないからです。

開発チームは全記録を1つのインデックスに入れ、プロンプトの指示文に「本人のものだけ答える」と書く案を出しました。担当者は、プロンプトの指示はアクセス制御ではないと却下し、検索段階で社員番号によって絞り、本人の記録だけモデルに送る方式にしました。

海外リージョンを使うことは、国外への処理委託に当たります。担当者は、雇用契約の履行に必要な処理委託であることを確認したうえで、第28条の8第1項第3号に基づき、移転する項目、国・時期・方法、受領者とその連絡先、目的・保有期間、拒否の方法・手続き・効果をプライバシーポリシーに公開しました。さらに、委託契約に、学習に使わないという条項と再委託への同意に関する条項があるかを確認しました。会話ログは30日後に削除し、従業員が閲覧や削除を要求した場合には、元の記録、検索インデックス、会話ログの3か所を確認する手続きを定めました。メモには「労働者代表との事前協議が必要かどうかは、労務面のレビュー対象」と、別の項目を残しました。

スルギオン:学習者の音声で発音採点モデルを作るとき

成人向け語学アプリ「スルギオン」は、録音された発音練習音声で採点モデルを改善します。音声の収集目的は「発音フィードバックの提供」で、規約には「サービス改善」とあります。一部クラスでは点数で次段階の授業配属を自動決定します。

担当者はまず、音声が個人情報かを検討しました。音声および録音内で発話された氏名から特定の個人を識別できるため、個人情報に当たります。ではセンシティブ情報でしょうか。施行令第18条第3号は、特定個人を識別する目的で技術的手段により生成した情報を対象とします。発音採点は話者を識別する目的ではないため、採点モデルが話者識別用の特徴値を作らない限り、この要件には該当しないと判断しました。ただし「後から話者認証を追加すれば結論が変わる」と条件を書き残しました。

根拠としては追加的利用と仮名情報の特例を比較しました。同じサービスのフィードバック品質を高める学習なので、当初目的との関連性が高く、学習者にも予測可能と考えて追加的利用を選びました。ただし、録音から名前の発話部分を切り取り、アカウント識別子を仮名キーに変えます。四半期ごとに再学習を繰り返すため、判断基準もプライバシーポリシーで公開することにしました。新たな同意を得る案については、同意率が低いとデータが特定集団に偏る問題と併せて記録しました。

自動的なクラス分けは、権利・義務への重大な影響とまでは考えにくいと判断しました。ただし、説明要求は重大性にかかわらず寄せられうるため、学習者から異議があれば講師が再評価する経路を設けました。

間違えやすいポイント

  1. 「仮名処理すれば個人情報ではない」 仮名情報も個人情報です。適用外になるのは匿名情報です。
  2. 「学習は内部利用なので処理でない」 利用・加工・生成も処理で、根拠が必要です。
  3. 「公開情報は自由に学習に使える」 個人が識別できれば個人情報で、正当な利益などの根拠と安全措置が必要です。
  4. 「サーバーに保存しなければ国外移転でない」 照会や処理委託も含まれます。
  5. 「契約に基づく自動決定なら義務はない」 拒否権だけが認められず、説明要求対応と基準公開は残ります。
  6. 「センシティブ情報も一般の同意1回でよい」 他の処理の同意とは別に取得します。
  7. 「委託契約があればベンダーが学習に使っても委託だ」 自己目的での利用は委託範囲を超えます。
  8. 「漏えいの確定まで通知を延期できる」 2026年改正で、可能性だけでも通知が必要な場合ができました。

ひと目でわかるまとめ

主題 要点
処理 収集から廃棄までAIの全段階(第2条第2号)
原則 明確な目的・最小収集、目的内処理、匿名を優先し次に仮名(第3条第7項)
根拠 第15条①の7つ。追加的利用は施行令第14条の2の4考慮事項、反復ならポリシーで公開
公開情報 正当な利益の3要件(目的の正当性・必要性・利益衡量)。案内書は勧告
センシティブ情報 別途同意または法令根拠。識別目的の生体特徴値を含む
仮名情報 個人情報。統計・科学的研究・公益的記録保存、分離保管、廃棄後3年の記録、再識別禁止
匿名情報 他情報を合理的に使っても識別できなければ適用外
委託・提供 委託は自社目的、提供は受領者目的。ベンダーの学習利用は委託外
国外移転 提供・処理委託・保管すべて。5根拠、保護措置を契約に反映
自動化された決定 完全自動処理による決定。重大な影響なら拒否権(例外:同意・法令・契約)。説明要求・基準公開は重大性を問わず、30日
漏えい 通知・届け出72時間、2026年から可能性の通知

公式ドキュメントで確認する

セルフチェック

3-1. 個人情報保護法第3条第7項が学習データ設計に求めることを1文で書き、加工前の元データの使用が必要だと主張するには、何を先に示すべきかを書いてください。

3-2. 個人情報保護法施行令第14条の2第1項の考慮事項を4つ書き、同条第2項が求める公開と点検を説明してください。

3-3. 個人情報保護委員会の公開個人情報処理案内書が、正当な利益の判断枠組みとして示した3要件を書き、法令とはどう性格が異なる文書かを書いてください。

3-4. 施行令第18条がセンシティブ情報に加えた4種類の情報を書き、身体的・生理的・行動的特徴に関する情報がセンシティブ情報となる条件を説明してください。

3-5. 外部AIベンダーが委託された顧客データを自己のモデル改善に使うと、どのような問題が生じるか、委託と第三者提供の違いを使って説明してください。

3-6. 情報主体が自動化された決定の説明を求めたとき、処理者が説明に含めるべき要素と処理期限を書いてください。

3-7. (設計)顧客問い合わせ応答AIのデータフローを、収集、検索インデックス、外部モデル呼び出し、会話ログ、廃棄の5段階で描き、各段階の根拠・保有期間・国外移転の有無を表にしてください。

実習課題

実習

AIデータフロー図と処理根拠メモ(50分)

  1. AI機能(架空でもよい)を1つ選び、収集、前処理、学習またはインデックス作成、推論、記録、廃棄を表にする。
  2. 各段階の処理項目、目的、根拠条文、保有期間、アクセス権限者、外部送信(国外かも含む)を書く。
  3. 特殊情報(センシティブ情報・固有識別情報・住民登録番号)が混じりうる箇所と除去方法を書く。
  4. 根拠が不確かなセルを集め「法的レビューの質問」にまとめる。

完了基準: 6段階すべてに根拠条文と保有期間があり、特殊情報の箇所を1つ以上示し、冒頭に「法的レビュー前の草案」とある。

実習

自動化された決定の公開文を書く(40分)

  1. 人の介入なしに個人についての結果を決める機能を仮定する。
  2. 施行令第44条の4の5公開項目をすべて含むサイト公開文の草案を書く。
  3. 拒否・説明要求時の社内手続き(受け付け、再処理担当者、30日期限、延長通知)を5行で書く。

完了基準: 5公開項目すべてを含み、専門用語を使わず情報主体が理解できる文で、社内手続きに期限と担当者がある。