第4章 学業倫理とAI利用ポリシー
学習目標
- 課題が確認しようとする能力に応じてAI許容レベルを選択し、学生が事前に把握できるように案内文で明示します。
- AI利用記録、原資料の引用、AI文章の引用明示を区別し、AIの利用を公開させます。
- AI判別器が学生の判断根拠になり得ない理由を公式資料に基づいて説明します。
- 判別器に頼らずに著者性と理解度を確認する課題設計を選択します。
- 不正行為が疑われる場合に、基準の確認から通知に至る公正な処理手順を設計します。
はじめに
ある高校教員研修で、進行役が質問を投げかけました。「生徒がAIからレポートのアウトラインを受け取って自分で書いた場合、不正行為でしょうか?」挙手した教員たちの回答はちょうど半分に分かれました。続く質問、「では、スペルチェッカーを使った場合はどうでしょうか?」には全員が違うと答えました。「AIから提示された反論を見て結論を書き直した場合はどうでしょうか?」では、再び意見が分かれました。
この場面が示しているのは、教員たちの考えが間違っているということではなく、基準が定まっていなければ同じ行動でも人によって判断が異なるという事実です。学生も同様です。何が許容されているのか分からない学生は、善意であっても基準に違反してしまう可能性があり、逆に許容されている支援でさえ隠すようになってしまいます。UNESCOが2023年に生成AI指針を発表した際に紹介した調査でも、450を超える学校や大学の中で生成AIの利用に関する機関ポリシーや公式指針を策定しているところは10%未満でした。
本章は基準を設けることから始まります。課題の目的に応じてAI許容レベルを定め、AI利用を公開して引用するルールを作成します。続いて、AI判別器の限界を公式資料で確認し、判別器なしで著者性を確認する課題設計を見ていきます。最後に、不正行為が疑われる場合の処理手順と、学校単位での基準策定について扱います。
重要な概念
学業倫理の問いが変わった
AI以前の学業倫理は、主に「他人の文章を引き写したか」を問うていました。AI時代には、問いが3つに分かれます。
- 著者性:この文章の中で学生が自ら執筆した部分とAIが作成した部分を区別できるでしょうか? 学生はそれを正直に明らかにしたでしょうか?
- プロセス:課題が育成しようとしている能力(調査、論証、表現)の過程を学生が実際に経たでしょうか?
- 正確性と責任:AIが提示した事実を確認したでしょうか? 成果物の内容に対して学生が責任を持てるでしょうか?
この3つの問いは、「AIを使ったか」という問いよりも精緻です。AIを使っていても3つの問いすべてに対して適切に答えることができますし、AIを使っていなくても正確性の面で破綻することがあります。したがって、優れたAI利用ポリシーは、利用の有無ではなく、利用方法と公開のあり方を扱います。
課題の目的から許容レベルへ
AI許容レベルは、科目ではなく課題が何を確認しようとしているかから導き出されます。本書では4つの段階を用います。
| レベル | 内容 | 適した課題 |
|---|---|---|
| 0 利用なし | この課題ではAIを利用しない。授業中の作成等で確認する | 一人での現在の実力を測る診断、基礎的な技能の練習 |
| 1 探索のみ | テーマの探索、資料探し、アイデア整理にのみ利用する。文章は学生が執筆し、対話記録を提出する | 調査と文章作成を併せて評価する探究レポート |
| 2 初稿の支援 | AIのフィードバックや初稿の提案を受けることができる。何を受け取ってどのように修正したかを記録する | 推敲のプロセス自体を学ぶ課題 |
| 3 自由利用 | AIを自由に利用し、AIの出力を検証・修正したプロセスを評価する | AIリテラシーを目標とする課題、AIの回答を検証する活動 |
同じ科目の中でも課題ごとにレベルが異なる場合があります。学期初めのライティング診断はレベル0、探究レポートはレベル1、「AIの回答を検証する」活動はレベル3が適しています。「同じ科目であれば同じレベルでなければ公平ではない」という考えは誤りです。公平性とは同じ課題に対して同じ基準を適用することから生まれるものであり、課題ごとにレベルが異なる点については案内文に明示することで混乱を減らすことができます。
逆に、「AI利用の有無は学生の判断に任せ、利用した場合は『支援あり』とだけ書かせる」という方法は避けてください。誰が何をどれだけ受け取ったのかが分からず評価が曖昧になり、誠実に利用しなかった学生がむしろ不利になるおそれがあります。
許容レベルの案内文を作成する
許容レベルは、課題の案内文に学生が読んで直感的に理解できるように記載します。
[課題案内文におけるAI利用基準の例]
AI利用レベル:1(探索のみ)
- できること:テーマ候補の探索、参考資料の検索、用語の意味の確認
- してはいけないこと:本文の文章を出力させること、結論を出力させること、文章を推敲させること
- 提出するもの:AIとの対話記録(学校が指定した方式のキャプチャまたはエクスポートファイル)、レポート末尾の「AI利用記録」
- AIが提示した事実や統計:原資料を探して確認し、原資料を出典として記載すること
- 基準に違反したと疑われる場合:学校の学業倫理規程に基づき根拠を確認し、弁明の機会を付与する
案内文に「してはいけないこと」を具体的に記載することが重要です。「AIに依存しないこと」のような曖昧な文言は、学生によって受け取り方が異なります。
AI利用記録
AI利用を公開する最も基本的な方法は利用記録です。レポートの末尾に次の4項目を記載させます。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 利用したツールと日時 | 学校契約のAIサービス、10月14日 |
| 利用目的 | テーマ候補の探索 |
| 主な質問 | 「青少年の睡眠と学業に関する探究テーマを5つ提案して」 |
| 結果をどのように活用したか | 5つのうち3つ目のテーマを選び、実験を自分で設計した |
OpenAIの教育者向けガイドでも、学生にAI利用を記録させて出典を明示させたり、学生がAIと交わした対話を共有させたりする方法を紹介しています。ただし、対話の共有リンクはリンクを知っている人なら誰でも閲覧できる場合が多いため、対話に個人情報が含まれている場合は、学校が定めた方法のキャプチャやエクスポートファイルで提出させる方が安全です。対話を共有すれば、教員は学生の質問レベルや批判的思考を確認でき、学生は自らの質問がどのように改善されたかを振り返ることができ、AIを責任を持って利用したかを確認できるということです。
利用記録に何を記載すべきかは、基準となる文言が定めます。「AIが内容の生成に関与した部分を記載する。スペルチェックのように表記のみを修正した場合は記載しない」という基準であれば、AIの翻訳結果を要約に反映させたことや、AIが提示した反論をもとに節を新たに執筆したことは記載し、スペルチェックは記載しません。基準が「すべてのAI利用を記載する」であれば、スペルチェックも記載します。
公開と引用のルール
AI利用の公開は、利用記録だけで完結するものではありません。AIをどのように利用したかによってルールが異なります。
- アイデアを得ただけの場合 → 利用記録で十分です。
- AIが提示した事実や統計を用いる場合 → AIを出典として記載してはいけません。原資料を探して確認し、原資料を引用します。原資料が見つからない場合は、その事実を根拠として用いてはなりません。
- AIが生成した文章をそのまま掲載する場合(許可された課題において) → 引用表記によって学生自身の文章と区別し、どのツールが生成した文章であるかを明らかにします。
- 翻訳、要約、文章推敲のようにAIが学生の文章を加工した場合 → 基準が記録を要求する範囲であれば、利用記録に何をどのように加工したかを記載します。加工した結果が内容そのものとなった場合(例:翻訳した資料の内容を要約に反映させた場合)、内容の生成に関与した利用とみなします。
2つ目のルールは、第1章で確認した原則(「AIが提示した事実は出典ではなく手がかり」)と同様です。3つ目のルールは、著者性を守るためのものです。「AIが作成した要約と自分が作成した要約を比較せよ」という課題であればAIの段落を掲載する必要がありますが、その段落が学生自身の文章であるかのように見えてはなりません。
AIを共同著者として記載する方法は適切ではありません。著者は内容に対して責任を負う人であり、AIは責任を負うことができません。レポートの内容に対する責任は、それを提出した学生にあります。
AI判別器はなぜ根拠になり得ないのか
AI判別器(ディテクター)は、文章がAIによって書かれた可能性をスコアで示すツールです。一見便利に見えますが、OpenAIは教育者向けガイドの中で判別器について次のように説明しています。
- 自社の研究において、判別器は教育者が学生に対して後々まで影響が残るような判断を下すにあたり、十分な信頼性を備えていなかった。
- 自社が学習させた判別器は、シェイクスピアの作品やアメリカ独立宣言のように、人間が書いた文章をAIが書いたものと判定した。
- 英語を第二言語として学んだ、または学んでいる学生や、文章が特に定型的あるいは簡潔な学生に対して、不均衡に影響を与える可能性がある兆候が見られた。
- 判別器が正確であったとしても、学生がわずかに修正を加えるだけで検知を回避できる。
- ChatGPTはどの文章がAIによって生成されたかを識別できず、「この文章はあなたが書きましたか?」といった質問に対して根拠のない回答をでっち上げることがある。
この説明は他社の判別器に対する評価ではないとOpenAIも述べています。しかし、判別の原理上同様の限界が生じ得るという点、そして学生に及ぶ結果の重大さを考慮すると、判別器のスコアを不正行為の判断根拠として用いることは危険です。複数の判別器の結果が一致していたとしても同様です。一致していることは正確性を保証しません。
注意
判別器のスコアを学生に突きつけ、「認めなさい」と迫るような面談の仕方も避けてください。信頼できない根拠をもとに引き出された供述はプレッシャーによる結果である可能性があり、判別器が不利に働きやすい学生に対して特に不当です。
判別器なしで著者性を確認する設計
判別器に頼る代わりに、課題設計の中に確認の仕組みを組み込みます。
| 仕組み | 確認する対象 | コスト |
|---|---|---|
| 授業中のアウトライン・導入段落の執筆 | 学生の出発点と文体 | 授業時間の一部 |
| 段階的な提出(アウトライン → 初稿 → 最終稿) | プロセスと変化 | 教員による中間確認 |
| 短時間の口頭確認(2〜5分) | 中核となる論証を自ら説明できるか | 学生1人あたり数分 |
| 対話記録の提出 | AI利用の範囲と方法 | 記録を読む時間 |
| 個人的な経験・授業資料との関連付け | AIが代替しにくい文脈 | 課題設計の労力 |
仕組みを選ぶ際は、学生数や教員の持ち時間、そして課題が評価しようとしている能力を総合的に考慮します。学生180名に対して執筆プロセス全体の画面録画を提出させても、教員がすべて確認することは不可能ですし、学生のプライバシーに関する負担も大きくなります。エッセイを試験時間中に手書きさせる形式に変更すればAIの介入は防げますが、資料調査の能力も併せて評価しようとしていた当初の目標が失われます。授業中の初稿執筆や短時間の口頭確認は、少ない時間でプロセスと理解度を直接確認できる有効な手段となる場合が多いです。
疑惑が生じた際の手順
周知された基準に違反したと疑われる事案は、次の順序で処理します。各段階の結果が、次の段階の判断材料となります。
- 基準の確認:該当の課題において周知されたAI利用基準および案内文を確認する。何が違反であるかは、この基準によって定まる。
- 根拠の収集:基準に照らし合わせて、提出物、対話記録、授業中の初稿、段階的な提出物などの根拠を収集する。
- 通知と弁明:学生に対して疑いが生じた理由と根拠を通知し、弁明を聞く。
- 決定:弁明と根拠を併せて検討し、学校の手順に従って違反の有無を決定する。
- 通知と異議申し立て:結果と理由を学生に通知し、異議申し立ての方法を案内する。
証拠が明白であっても、弁明の機会を省略してはなりません。弁明は事実関係の誤解を正し、処理結果の正当性を担保するための仕組みです。教員が一人で減点して済ませてしまうような方法は、手順を怠ったことになります。
基準がなかった場合とあった場合
同様の疑いであっても、基準が存在していたかどうかによって対応は完全に異なります。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 基準がなかった課題でAI利用が疑われる場合 | 違反として処理しない。許容範囲と記録提出の基準を定め、次の課題から案内する |
| 基準が周知されており、対話記録が違反を示している場合 | 記録と基準に基づいて事実を整理し、弁明の機会を与えたうえで手順通りに処理する |
| 基準は周知されていたが、直接的な根拠がない場合(判別器のスコアのみ) | 判別器を根拠として用いない。面談によって執筆プロセスと理解度を確認し、手順に従って判断する |
基準がなかった課題に対して新しい基準を遡及して処分を下すと、学生は知り得なかったルールのために不利益を被ることになります。「学業倫理は基準がなくとも当然守るべきだ」という主張は、他人の文章をそのまま盗用するような古くからのルールには当てはまるかもしれませんが、AIをどこまで使ってよいかのように学校ごとに基準が異なる領域には当てはまりません。
学生のAI利用から生じるリスクの種類
学生のAI利用に関する問題は、すべて同じ種類のものではありません。種類によって防ぐ方法が異なります。
| 行動 | リスク | 防ぐ方法 |
|---|---|---|
| AIが提示した数値を典拠の確認なしに引用 | 事実の誤り(ハルシネーション) | 原資料の確認と原資料の引用 |
| 友人の氏名や住所が含まれるインタビュー原文をAIに入力 | 第三者の個人情報の漏洩 | 入力前の匿名化(非識別化)、入力しない情報の案内 |
| AIが作成した段落を自分の文章として提出 | 著者性の偽装表示 | 許容レベルの案内、利用記録、引用表記 |
| 実施していないアンケート結果をAIで作成して表に挿入 | 研究データの捏造・改ざん | 原資料(アンケート用紙、回答データファイル)の提出 |
| 自身の悩みや健康に関する話をそのままAIに入力 | 学生自身のプライバシー情報の露出 | 入力しない情報の案内、学校が承認したツールの利用 |
| AIが出力した既存作品の一節をそのまま利用 | 著作権侵害 | 出典の確認と引用ルール |
特にデータの捏造・改ざんは、引用のミスとはまったく次元の異なる問題です。存在しない調査結果をでっち上げたり(捏造)、実際の結果を恣意的に変更したり(改ざん)することに他ならないからです。原資料の提出を求めることで予防できます。
学校基準の策定
課題ごとの案内文は、教員個人の努力だけでは一貫性を保つことが困難です。学校単位の基準があれば、教員間の差異を透明性をもって管理できます。優れた学校基準には、次の5つの要素が含まれます。
- 許容レベルの定義:0〜3といった段階と、各段階でできること、してはいけないこと
- 明示の義務:すべての課題案内文にレベルを明示する
- 記録と公開の方法:利用記録の様式、対話記録の提出方法、引用ルール
- 確認方法:判別器を根拠として用いないという原則と、その代替として用いる確認の仕組み
- 手続き:疑惑が生じた事案の処理手順、弁明の機会、異議申し立ての方法
学校全体でAIを一律に禁止し教員がその都度例外を許可する方法や、学校の基準がないまま教員が口頭でのみ案内する方法、判別器のスコアにしきい値を設ける方法、誓約書のみを提出させる方法などは、「課題ごとに何が許容されているかを事前に把握できなければならない」という条件を満たすことができません。
ルールを超えてリテラシーへ
AI利用ポリシーの目的は、取り締まりではなく学習です。OpenAIの教育者向けガイドは、AIとの対話を共有させることで、学生がAIの限界を理解し、情報を批判的に検証する能力を発揮できるとともに、AI利用が日常化する未来に向けて責任ある利用への準備を促すことができると説明しています。UNESCOも生成AIに関して、人間中心のアプローチと年齢に応じた利用を強調しています。
したがって、ポリシーは「〜してはならない」という禁止事項の羅列ではなく、「このように利用し、このように開示しなさい」という手引きであるべきです。レベル3の課題においてAIの回答の誤りを見つけ、根拠に基づいて訂正する活動は、学生に対してAIの使い方とAIを疑う姿勢の双方を教えることにつながります。
さらに深く
「正確度98%」の読み解き方:基準率の罠
ある業者が判別器の正確度を98%だと宣伝しているとしましょう。この数字が実際に何を意味しているのかは、数字だけでは分かりません。どのような文章でテストしたのか、英語学習者の文章が含まれていたのか、生徒が推敲した文章もテストしたのかが示されていないためです。
説明のために単純な計算をしてみましょう。これは業者の資料ではなく、理解を助けるための仮定です。ある学校で生徒500人が提出した文章のうち、実際にAIで書かれた文章が20編であるとし、判別器が人間が書いた文章を誤ってAIによるものと判定する割合が2%であると仮定しましょう。すると、人間が書いた文章480編のうち、約10編が誤って判定されます。判別器がAIによる文章20編をすべて検出できたとしても、「AI作成」と表示された30編のうち3分の1は無実の生徒の文章です。そして、その無実の生徒が定型的な文章を書く英語学習者に集中するなら、問題はさらに深刻になります。
この計算が示しているのは、正直な生徒が多いほど、わずかな誤判率でも多くの無実の事例を生み出してしまうという点です。統計学ではこれを基準率の罠と呼びます。全体の正確度が高くても、実際にAIで書かれた文章が稀であれば、「AI作成」という判定が正しい確率は大幅に低下します。業者が語る正確度と、「この判定を受けた文章が実際にAIによる文章である確率」は異なる数字です。判別器が生徒に対する判断の根拠になり得ない理由は、正確度の数字が低いからだけではなく、生徒一人に下す判断の重みに比べて誤判のコストがあまりにも大きすぎるためです。
禁止ポリシーのコスト
AIを全面禁止すれば、単純で公平に見えます。しかし、禁止には3つのコストがあります。第1に、家庭で行う課題では守らせることが難しく、守らなかった生徒を見分ける信頼できる方法もありません。結局、正直な生徒だけが不利になりかねません。第2に、生徒がAIを責任を持って使う方法を学ぶ機会が失われます。第3に、生徒が隠れて使うようになることで、利用記録という最も優れた根拠が失われます。
もちろん、禁止が適している課題もあります。一人だけの現在の実力を診断する課題や、授業中に行う基礎技能の練習が該当します。核心は、教科や学校全体ではなく課題単位で、そして確認できる方法(授業中の執筆)とともに禁止することです。
口頭確認は誰にとって公平か
短い口頭確認は判別器よりもはるかに優れた確認手段ですが、それ自体で完全に公平であるわけではありません。話すことに自信のない生徒、韓国語を学習中の生徒、不安の強い生徒は、自分が書いた文章であっても言葉でうまく説明できない場合があります。
そのため、口頭確認は処罰のための試験ではなく、理解を確認する対話として設計します。質問は事前に範囲を知らせておき(例:「中心的な主張と最も重要な根拠を1つ説明する」)、必要に応じて文章で答える代替手段や通訳の支援を用意します。口頭でうまく説明できなかったという事実だけで不正行為と判断することはせず、他の根拠(授業中の下書き、段階ごとの提出物)と合わせて見ていきます。
実務の場面
青い丘高等学校:教員52名が合意した基準
青い丘高等学校は、学期中にAIに関する苦情や相談が相次いだことを受け、生徒のAI利用基準を策定することにしました。教員アンケートでの意見は、「全面禁止」31%、「教科裁量」46%、「自由利用」23%に分かれました。
基準策定委員会は3つの草案を検討しました。全面禁止の草案は、情報科のAI実習と衝突し、家庭で行う課題において守らせる方法がないため不採用としました。教科裁量の草案は教員の意見を尊重するものの、生徒や保護者が課題ごとに何が許可されているのかを事前に把握できないという問題がありました。業者が提案した判別器中心の草案は、OpenAIの教育者向けガイドを共に読んだ後に不採用としました。人間が書いた文章をAIによるものと判定してしまう可能性があり、学校に在籍する約40名の多文化家庭の生徒にとって不利になり得るという点からでした。
委員会は4段階の許可レベル(0 利用なし、1 探索のみ、2 下書き支援、3 自由利用)を定義し、すべての課題案内文にレベルを表示させるようにしました。教科の裁量は「どのレベルを選択するか」という形で活かしました。レベル1以上の課題には対話記録と利用記録の提出を義務づけ、公開と引用のルールを生徒向けの1枚の案内としてまとめました。違反が疑われる場合には、基準確認、根拠収集、弁明、決定、通知の5つの段階を経るようにしました。
1学期後、委員会は課題案内文のサンプル40件を点検し、レベル表示が漏れていた案内文6件を見つけて該当教科に知らせました。生徒アンケートにおいて「課題ごとにAIをどこまで使ってよいか分かっている」という回答は、基準導入前と比べて大幅に増加しました。
雲川中学校:疑惑から結論まで
雲川中学校の2年生の国語科パフォーマンス評価は、レベル1(探索のみ)の課題として告知され、対話記録と利用記録の提出が求められていました。採点していた教員は、ある生徒のレポートにおいて結論の段落の文体が前の部分と明らかに異なっていることに気づきました。
教員が最初に思い浮かべたのは判別器にかけてみることでしたが、学校の基準で判別器を根拠として用いないと定められていたため思いとどまりました。代わりに生徒が提出した対話記録を開きました。記録には、生徒が「結論をかっこよく書いて」とリクエストしてAIが結論の段落を書いてくれた対話があり、レポートの結論はその段落とほぼ同じでした。告知された基準(本文の文章を作成してもらうことの禁止)に違反したと見られる直接の根拠でした。
教員はすぐには減点しませんでした。学校の手続きに従って生徒に基準の文言と対話記録の該当部分を示しながら疑念の理由を伝え、弁明を聞きました。生徒は「結論だけは手伝ってもらってもよいと思っていました」と話しました。学業倫理委員会は記録と弁明を共に検討して基準違反と判断したものの、案内文に「結論」が明示されていなかった点を考慮し、学校の規程が定めた範囲内で結論の段落を書き直させる措置を決定しました。結果と理由は生徒に書面で通知し、異議申し立ての方法も案内しました。
この事例の後、教科では案内文の「してはならないこと」に「結論を作成してもらうこと」を明記しました。前節の案内文の例に「結論を作成してもらうこと」が含まれているのも、このような経験を反映したものです。教員が採用しなかった選択肢は、判別器による検査、弁明のない即時減点、そして「生徒が記録を自ら提出したのだから正直であったと見なして不問に付すこと」でした。記録の提出は基準の一部に過ぎず、記録が示している違反をなかったことにはできないためです。
間違えやすいポイント
- 「同じ教科であればすべての課題に同じAI基準を適用するのが公平だ。」 一貫しているように見えますが、課題ごとに確認しようとする能力が異なります。同じ課題に同じ基準を適用することが公平であり、課題ごとの違いは表示によって解決します。
- 「AIを許可した課題は記録を受け取る必要がない。」 許可したのだから確認することはないように思えますが、許可された範囲内で使ったかを確認し、プロセスを評価するためには記録が必要です。
- 「AIが教えてくれた統計は、AIを出典として記載すればよい。」 出典を明らかにしたので正直に見えますが、AIは出典ではなく確認すべき手がかりです。一次資料を探して引用します。
- 「複数の判別器の結果が一致していれば確実だ。」 複数のツールの合意は客観的に見えますが、一致しているからといって正確性が保証されるわけではありません。
- 「AIに直接尋ねれば確認できる。」 AIが書いた文章なのだからAI自身が知っていると思われがちですが、OpenAIはChatGPTがこのような質問に対して根拠のない答えを捏造すると説明しています。
- 「基準がなくてもAIで書いたものは不正行為だ。」 常識のように思えますが、許容範囲が学校ごとに異なる領域において基準なしに処罰すれば、生徒は知り得なかったルールによって不利益を被ることになります。
- 「証拠が明白であれば弁明は省略してもよい。」 効率的に見えますが、弁明は結論の正確性とは別に手続きの公平性を守るための仕組みです。
- 「生徒が記録を自発的に提出したのだから問題視しない。」 正直さを尊重しているように見えますが、記録の提出は基準の一部です。記録が違反を示している場合は手続きに従って対処します。
ひと目でわかるまとめ
- 許可レベルは教科ではなく、課題が確認しようとする能力によって決める:診断 → 0、調査・執筆 → 1、推敲学習 → 2、AIリテラシー → 3。
- 案内文にはレベル、できること、してはならないこと、提出するもの、疑惑が生じた場合の手続きを記載する。
- 公開のルール:アイデアは利用記録、AIが提示した事実は一次資料を引用、AIの文章は引用表記、翻訳・要約などの加工は基準に応じて利用記録。AIは著者ではない。
- 判別器:人間が書いた文章をAIと判定してしまう可能性があり、第二言語学習者や定型的な文章に対して不利になる場合があるほか、わずかな修正で回避できる。ChatGPTに尋ねても確認にはならない。
- 著者性の確認は課題設計で行う:授業中の下書き、段階的な提出、短い口頭確認、対話記録。
- 手続き:基準の確認 → 根拠の収集 → 通知と弁明 → 決定 → 通知と異議申し立て。
- 基準が定められていなかった課題については遡及して処罰せず、基準を設けて次の課題から適用する。
- リスクの種類(事実の誤り、個人情報、著者性、データの改ざん、著作権)ごとに対策が異なる。
- 学校基準の5つの要素:レベルの定義、表示義務、記録・公開方法、確認方法、手続き。
公式ドキュメントで確認する
- OpenAI Help — How can educators respond to students presenting AI-generated content as their own? — 「Do AI detectors work?」の部分と対話共有のメリットを原文でお読みください。
- UNESCO — Guidance for generative AI in education and research — 人間中心、年齢に応じたアプローチ、機関における検証準備の不足に関する説明をお読みください。
- UNESCO — Governments must quickly regulate Generative AI in schools — 機関ポリシーを持つ学校・大学が10%未満であったという調査結果をご確認ください。
- Anthropic — Reduce hallucinations — AIが提示した事実を一次資料で確認しなければならない理由を改めてお読みください。
- 国家法令情報センター — 著作権法(韓国)第28条 — 生徒の文章において他人の文章を引用する際の要件です。
セルフチェック
4-1. AI時代の学業倫理が問う3つの質問を書き、AIを使用していなくてもその質問で失敗しうる例を1つ挙げてください。
4-2. 本書の4段階の許容レベルを書き、各レベルによく適した課題の性質を1行ずつ書いてください。
4-3. 学生がAIをアイデアにのみ使用した場合、AIから得た事実を使用した場合、AIの文章をそのまま掲載した場合に、それぞれ必要となる開示方法を書いてください。
4-4. OpenAIが教育者向け案内で明らかにした判別器の4つの限界を書いてください。
4-5. 人間が書いた文章をAIによる作成だと誤判定する割合が低く見えても、正直な学生が多い集団では不当に疑われる事例が多く発生する理由を説明してください。
4-6. 判別器の代わりに著者性を確認する3つの仕組みを書き、学生数が多く教員の時間が少ないときに何を選択するか、理由とともに述べてください。
4-7. 不正利用が疑われる事案の処理手順5段階を書き、証拠が明白であっても省略してはならない段階を選んでください。
4-8. (設計課題)皆さんが来月出題する課題を1つ選び、本章の例をもとにAI利用基準の案内文を8行以内で書いてください。
実習課題
実習
実習 4-A. 1学期の課題における許容レベルマップ(40分) 今学期に出題する課題をすべて書き出します(最低4つ)。課題ごとに確認したい能力を1行で書き、本章の許容レベル(0〜3)の中から1つを選んだ上でその理由を記します。レベル1以上の課題には、提出させる記録(対話記録、使用記録)と確認の仕組み(授業中の下書き、口頭試問など)を定めます。 完了基準: 4つ以上の課題が表にまとめられており、すべての課題に確認する能力、許容レベル、理由があり、レベル1以上の課題には提出記録と確認の仕組みが記載されていること。
実習
実習 4-B. 疑わしい事案の処理シナリオ練習(50分) 同僚教員とペアを組み、1人は基準が周知された課題においてAI利用が疑われる架空の事案(提出物、対話記録の一部、授業中の下書きなど)を作成し、もう1人は本章の5段階に従って処理記録を書きます。処理記録には、確認した基準の文言、集めた根拠、弁明を求める3つの質問、決定とその理由、学生に送る通知文を含めます。役割を交代してもう一度行います。 完了基準: 5段階がすべて記載された処理記録が2件あり、どちらの記録にも判別器のスコアが根拠として使われておらず、通知文に異議申し立ての方法が含まれていること。