第5章 ブランド審査ワークフロー

学習目標

  • ブランドガイドをAIが従うことのできる指示、理由、例、構造へと落とし込みます。
  • AIコンテンツのリスク類型に応じて審査段階と責任者を定め、承認フローを設計します。
  • AIで作成した画像・動画・音声の権利(著作権、識別標識、利用規約)を確認する手順を策定します。
  • リアルタイム・自動化コンテンツのように事前承認が困難な場合の統制方法を選択します。
  • 投稿後のモニタリング計画を立て、問題のあるコンテンツを回収して再発を防ぐ手順を実行します。

はじめに

生成AIを導入したマーケティングチームが3か月後に直面する出来事は、大抵似通っています。最初の月は生産量が何倍にも増え、誰もが喜びます。2か月目には審査待ちのキューが積み上がり、「AIが作ったものは早く投稿しよう」というプレッシャーが生じます。3か月目には事故が起きます。根拠のない数値がバナーに掲載されたり、撤回されたおすすめの文言が自動の組み合わせによって復活したり、有名人に似たAIの顔が広告に流れたりします。

事故の原因は大部分がAIではなくワークフローにあります。誰が何を確認するのかが定まっておらず、リスクの高い素材と平易な素材が同じ列に並んでおり、投稿後に何を見守るべきかを誰も知りませんでした。前の4章が「何が正しいか」を扱ったとすれば、本章は「その判断を毎日、何百件にもわたり、複数の人が一貫して下すにはどうすればよいか」を扱います。

優れたワークフローとは、審査者を増やすことではなく、判断を前倒しすることです。何を使ってよいかはブリーフで、誰が何を確認するかはリスク等級で、問題が生じたら何を行うかは回収手順であらかじめ定めておけば、生産量が増えても審査の質が崩れることはありません。

本章では、ブランドガイドをAIに伝達する方法から始まり、リスク等級別の審査と役割分担、権利確認、リアルタイムコンテンツの統制、投稿後のモニタリングと回収までをひとつの流れとして整理します。

重要な概念

ワークフローが必要な理由

AIコンテンツの責任は企業にあります。表示広告法(韓国)上の広告責任は広告を行った事業者にあり(第1章)、おすすめの表示義務は広告主にも存在し(第2章)、広告送信と顧客データの責任も企業が負います(第3章)。不当な広告により消費者に損害を与えた事業者は、故意や過失がないことを理由に責任を免れることはできません(表示広告法第10条第2項)。「AIがそう書いた」という説明では、責任を軽減することはできません。

NISTのAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)は、この責任を組織構造へと落とし込むよう求めています。GOVERN 2.1では、AIリスクの把握・測定・管理に関わる役割と責任、コミュニケーション経路が文書化されていなければならないと定めています。マーケティングのワークフローに置き換えれば、「どのような素材を、誰が、どのような基準で、いつ確認し、問題が生じた場合は誰に知らせるのか」を書き記しておくべきだという意味になります。

ブランドガイドをAIが従えるように書く

「私たちのブランドトーンに合わせて書いて」というのは、人間にとっても曖昧な指示です。Claude公式ドキュメントにおけるプロンプトのベストプラクティスでは、AIをコンテキストを知らない有能な新入社員のように扱い、同僚が最小限のコンテキストで再現できるかどうかテストしてみることを推奨しています。ブランドガイドを指示文に落とし込む際に活用できる原則は5つあります。

  1. 明確かつ具体的に: 望ましい出力形式と制約(長さ、敬語、禁止表現、必須表示)を記述します。
  2. 理由を添えて: ドキュメントによれば、指示のコンテキストと動機を伝えることで、モデルは目標をより深く理解し一般化できます。「『完治』という言葉を使うな」の代わりに、「自社製品は医薬品ではないため、治療効果を約束すると消費者の誤認を招く恐れがあります。使用感と成分情報で説明してください」と記述します。
  3. 例を適切に選ぶ: 例は形式・トーン・構造を導く最も確実な方法のひとつです。ドキュメントでは、実際のユースケースに類似しており(関連性)、意図しないパターンを学習しないよう互いに十分に異なっており(多様性)、タグで区切られた(構造)例を3〜5個含めるよう推奨しています。
  4. 構造に分割する: 指示、コンテキスト、例、入力を <instructions>、<context>、<examples> のようなタグで分割すると、モデルが内容を取り違えて読み取る可能性が低くなります。複数のブランドをひとつの指示文で運用する際には特に重要です。
  5. してはならないことより、すべきことを: ドキュメントでは、「何をしてはならないか」よりも「代わりに何をすべきか」を教える方が効果的であると説明されています。

以下は、ブランドガイドを指示文に落とし込んだ例です。

<context>
ブランド: '呼吸する壁' エコペイント。読者: 自分で住まいを整える30〜40代。
言葉遣い: 丁寧語、1文40字以内、感嘆符は段落ごとに1つ以下。
</context>
<instructions>
1. 成分・認証・試験結果は、以下の <facts> にあるもののみを使用する。記載のない数値を創作してはならない。
   理由: 広告における事実の主張は、企業が資料によって証明しなければならないためである。
2. '無毒性'、'100%安全' のような絶対的な表現の代わりに、認証名称と試験項目をそのまま記載する。
3. 結果はタイトル1個と本文3文で作成する。
</instructions>
<facts>
(根拠資料の担当者が確認した認証・試験結果一覧)
</facts>
<examples>
<example>(承認済みの文言 1: リビングの壁、短い文章形式)</example>
<example>(承認済みの文言 2: 子ども部屋、質問から開始)</example>
<example>(承認済みの文言 3: 玄関、施工のコツを含む)</example>
</examples>
<input>
(今回使用する商品情報)
</input>

ブリーフ:生成前に決定すべきこと

優れた結果は優れたブリーフから生まれます。AIに作業を任せる前に、キャンペーンブリーフで以下の項目を確定させてください。

項目 内容 理由
目標と対象 誰に何をさせるか トーンとチャネルが定まる
使用可能な事実 根拠資料が確認された数値・認証・試験結果の一覧 AIが事実を捏造しないようにする
禁止表現 排他的表現、効能の約束、競合への言及などとその理由 事前の段階で審査の負担を減らす
必須表示 タイアップ・架空の人物・広告性情報の明示事項 脱落すると法令違反
チャネルとスケジュール 投稿媒体、配信時刻、期間 媒体ごとに表示ルールと送信ルールが異なる
責任者 ブランド、根拠資料、権利・表示、最終承認 誰が確認するかをあらかじめ決めておく

リスク等級別の審査

すべての素材を同じ強度で審査するとボトルネックが生じ、ボトルネックはやがて「急ぎだからそのまま投稿しよう」という事態につながります。反対にすべてを軽視すれば、危険な素材を見過ごしてしまいます。その解決策は、リスクに応じて分類することです。

等級 素材類型 審査
高 効能・安全・環境・AI技術の主張、順位・最上級・比較、価格・割引率、実在の人物・有名人に似た顔や声、実際と区別が困難な架空の人物、子ども向け 根拠資料担当または権利・表示担当の確認後に最終承認
中 タイアップ・口コミコンテンツ、広告性メッセージの配信 権利・表示担当が表示・送信ルールのチェックリストで確認
低 事実の主張を含まない感性的な文言、一般的な画像 ブランド担当による審査

AIを1次分類に活用するのは優れた方法です。数値、順位、最上級、人物の登場などをフラグ立てさせれば、高リスク等級の候補を迅速に抽出できます。ただし、分類から外れた素材であっても、低リスク等級としての人間による審査は経る必要があります。検知ツールが見落とす可能性があるためです。

役割と責任

審査の段階ごとに、誰が何を行うかを定めます。人数の少ないチームであれば1人が複数の役割を兼任しても構いませんが、同一の素材において作成者と承認者は分けることが望ましいです。

役割 業務内容
作成者(マーケター) ブリーフの作成、AIドラフト生成、1次整理
ブランド担当 トーン・ガイドライン遵守、低リスク等級の承認
根拠資料担当 事実の主張と資料の照合、実証資料の保管
権利・表示担当 人物・画像・音声の権利、タイアップ・架空の人物の表示、送信ルール
最終承認者 等級別審査の完了確認、投稿の承認、回収の決定

審査チェックリスト

チェックリストは、前章までの判断基準を1枚にまとめたものです。

  1. 事実の主張: 数値・順位・最上級・比較・効能・認証・AI技術の主張ごとに根拠資料が添付されているか。資料の対象・条件・期間が文言と合致しているか(第1章)。
  2. 価格・割引: 定価は最近の実際の販売価格か、割引率と対象品目、期間・数量の表示が事実と一致しているか(第1章)。
  3. おすすめ・口コミ: 対価関係の表示文言・位置・形態・言語が適切か。架空の人物の表示と体験談のセリフはないか。口コミを改変したり統合したりしていないか(第2章)。
  4. 送信: 対象者の同意・夜間同意・拒否状態、別表6の明示事項(「(広告)」、送信者情報、無料の受信拒否方法)(第3章)。
  5. データ: パーソナライズに使用したデータの根拠と処理環境(第3章)。
  6. 権利: 人物・音声・画像の権利と利用規約(本章)。
  7. 記録: 決定と根拠、不採用となった代替案が残されているか。

権利確認1:著作権と人間の寄与

著作権法(韓国)第2条第1号では、著作物を「人間の思想または感情を表現した創作物」と定義しています。そのため、人間の創作的な寄与なしにAIが作成した生成物は、著作物として保護を受けることが困難です。マーケティングにおいて、この定義が重要となる場面は2つあります。

第1に、企業がAIで作成したキャラクターやイラストを自社の資産として保護したい場合です。競合他社が似たようなイラストを使用しても、AIがほぼそのまま生成した部分は著作権によって差し止めることが困難です。人間が描き直したり、選定したり、配置したり、修正した部分を作業記録(ドラフト、修正履歴、作業者)として残しておけば、保護を主張できる範囲を定める際の根拠となります。著作権登録を視野に入れるなら、AIが作成した部分と人間が作成した部分を区分しておく必要があります。ブランドの識別性を守るためには、商標など他の制度も併せて検討してください。

第2に、AIの生成物が他人の著作物と類似している場合です。特定の作家の絵画や有名キャラクターと酷似した生成物が出力された場合、それがAIによって作成されたという理由で問題が解消されるわけではありません。実在する作品を想起させる生成物は使用しないか、権利関係の審査を経るようにします。

権利確認2:顔、声、名前

不正競争防止法(韓国)第2条第1号タ目では、韓国内で広く認識され、経済的価値を有する他人の氏名、肖像、音声、署名など、その他人を識別できる標識を公正な商慣行や競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用し、他人の経済的利益を侵害する行為を不正競争行為と定めています。

AI広告においてこの条項が問題となる典型例は、プロンプトに有名人の名前を入力して「○○のような声」「○○に似た顔」を生成する場合です。生成物がその人物を想起させるものであれば、取り下げるか本人の利用許諾を得なければなりません。「AI生成」という表示を付与したとしても、その人物の利益を侵害している問題は解決されません。実在の人物を広告に使用する場合の肖像利用許諾、そしておすすめ・保証審査指針における有名人に関する規定(第2章)も併せて確認します。

権利確認3:生成サービスの利用規約

AIの生成物を広告に使用できるかどうかは法律が一律に定めているわけではなく、各サービスや料金プランの利用規約によって定められています。商用利用の可否、生成物の権利帰属、禁止用途、免責条件はサービスごとに異なり、同じサービスであっても個人・無料プランと法人向けプランで異なる場合があります。

実務における原則は3つあります。会社の法人アカウントおよび契約で使用するサービスをあらかじめ定めておき、個人アカウントの利用を制限します。承認されたサービスごとに商用利用の条件と確認日を記録します。規約が変更された場合は、既存の素材の利用条件を再確認します。

表示義務が重複する領域

AIコンテンツには、複数の表示義務が重複して適用されることがあります。

状況 表示 根拠
実際と区別が困難なAIによる架空の人物がおすすめ 架空の人物であることを明確に(文章はタイトル・冒頭、写真・動画は登場している間その近くに) おすすめ・保証審査指針 V.5
対価を受け取ったおすすめ・口コミ 経済的利害関係を案件ごとに おすすめ・保証審査指針 V.6
SMS・プッシュ広告 送信者名称・連絡先、受信拒否方法 情報通信網法(韓国)第50条第4項
生成AIを利用した製品・サービスを顧客に提供 事前告知、生成物の表示など 人工知能基本法(韓国)第31条

人工知能基本法(韓国)第31条は、人工知能事業者に対して項ごとに異なる義務を定めています。第1項は高影響人工知能や生成AIを利用した製品・サービスを提供する際の事前告知、第2項は生成AIの生成物が生成AIによって作成された旨の表示、第3項は実際と区別が困難な架空の音響・画像・映像などを提供する際の告知・表示です。高影響であるという理由だけで第2項の生成物表示義務が生じるわけではありません。施行令では、事業者の内部業務用途でのみ使用する場合などを例外として定めています。企業が顧客にAI機能(例:AIコーディネートのおすすめ、AI相談)を提供する場合は、この条項を検討する必要があります。広告素材を作成するためにAIをツールとして使用した場合にどうなるかは事実関係によって異なるため、法令の原文や政府のガイドラインを確認し、必要に応じて専門家のレビューを受けてください。本コースの試験では、広告法・おすすめ審査指針・送信ルールの表示を中心に出題されます。

リアルタイム・自動化コンテンツの統制

ライブ配信中のAIチャット回答、顧客の行動に応じて自動生成されるバナー、AIエージェントによる自動配信のように、件ごとに事前承認を行うことができないコンテンツがあります。このような場合は、承認の対象を個別の生成物から生成条件へと移します。

  1. 範囲の制限: あらかじめ承認した回答範囲、テンプレート、事実一覧(価格・在庫はリアルタイムデータ連携)の範囲内でのみ生成されるようにします。
  2. リアルタイム監視: 担当者が常時モニタリングし、異常の兆候(誤った価格、禁止表現、苦情の急増)が見られた場合に即座に停止できる中断装置を設置します。
  3. 記録: 生成された結果をすべて保存し、事後点検および訂正の根拠として利用します。

NIST AI RMF MANAGE 4.1では、デプロイ後のモニタリング計画に、利用者や関係者からの意見を収集・評価するメカニズム、異議申し立てや人間による手動介入(override)、運用停止、インシデント対応、復旧、変更管理を含めることを求めています。リアルタイムコンテンツの統制は、この要件をマーケティングへと適用したものです。

投稿後のモニタリング

投稿は審査の終わりではなく、管理の始まりです。モニタリング計画には以下の項目が含まれます。

項目 例
何を見守るか 顧客からの問い合わせ・通報、コメント、受信拒否率、返品理由、タイアップ投稿の表示維持
誰が、どれくらいの頻度で 担当者と周期(リアルタイム・毎日・毎週)
いつ行動するか あらかじめ定めた基準(事実の誤りの確認、表示の脱落、権利に関する異議申し立て)
何を行うか 投稿の中止、修正、訂正、関係者への通知

タイアップ投稿は、投稿後に表示が削除されたり「もっと見る」の中に移動されたりすることがよくあります。広告主も表示義務の主体であるため、定期的に確認し、修正を要請します。

回収と再発防止

問題が発生したAI素材は、次の手順で処理します。

  1. 中断: すべてのチャネルから該当する素材を取り下げ、同じ素材を使用している予約投稿・配信を停止します。
  2. 範囲の把握と記録: 露出期間、チャネル、インプレッション数、影響を受けた顧客を記録します。NIST AI RMF MANAGE 4.3では、インシデントやエラーを関係者(影響を受ける人々を含む)に通知し、追跡・対応・復旧の手順に従って文書として残すことを求めています。
  3. 是正: 必要に応じて訂正の案内を行い、顧客への被害がある場合は対応します。企業が自発的に行う訂正は、公正取引委員会(韓国)による処分とは異なります。参考までに、公正取引委員会が不当な広告に対して命じることができる是正措置には、違反行為の中止、是正命令を受けた事実の公表、訂正広告などがあります(表示広告法第7条)。
  4. 原因の究明: どの段階でフィルタリングできなかったのかを突き止めます。チェックリストの項目が不足していたのか、等級の分類を誤ったのか、承認なしに投稿されてしまったのかを確認します。
  5. 改善: 手順・チェックリスト・指示文・素材リポジトリを改訂します。MANAGE 2.3では、新たに判明したリスクに対応し復旧する手順に従うことを求めています。
  6. 類似パターンの調査: 同じ原因によって作成された他の素材がないかを再点検します。

素材リポジトリの管理

AIが素材リポジトリの写真や文言を組み合わせてバナーを自動生成する場合、リポジトリ自体が統制の対象となります。素材ごとに以下の情報をメタデータとして付与しておいてください。

  • 出典と権利状況(自社撮影、購入、AI生成+サービス名、利用許諾範囲と有効期限)
  • おすすめ・口コミ素材であれば、おすすめした人物、おすすめした時点、商品バージョン、撤回の有無
  • 事実の主張がある場合は、根拠資料と有効期間
  • 使用可能なチャネルと禁止される組み合わせ

おすすめ・保証審査指針では、おすすめした人物がおすすめを変更または撤回した場合、当初のおすすめをそれ以上使用することはできず、製品や環境におすすめ内容を変更するような事項が生じた場合は、おすすめした人物に通知して再度おすすめを受けない限り継続して使用することはできないと定めています。リポジトリに「撤回」と「商品変更」のステータスが存在しない場合、AIは撤回されたおすすめを何食わぬ顔で再び組み合わせてしまいます。

さらに深く

人がすべて確認するのが最も安全なのか

「AI素材はすべて法務チームが確認する」というルールは安全に見えますが、実際には2つの理由から危険です。第1に、処理能力を超える審査リクエストは待ち行列を生み、待ち行列は例外承認や迂回を招きます。第2に、同じ強度で数百件を見る人間は疲弊し、疲弊した審査は形式的な合格になってしまいます。審査の質は人間の数ではなく、リスクに合わせた配分から生まれます。リスクの高い素材に専門的な検討を集中させ、低い素材はチェックリストとブランド審査で処理し、サンプル点検で等級分類が正しいかを確認する構造のほうがより安全です。

生成モデルに審査を任せるとき

AI審査ツールは高速で、疲れることもありません。しかし、3つの限界を覚えておく必要があります。第1に、事実の主張が正しいかどうかは社内資料でのみ判定できますが、モデルはその資料を知らないか、閲覧する権限がありません。第2に、文言を作成したモデルが同じコンテキストで自らの結果を検討すると、同じ錯覚を繰り返しやすいです。第3に、審査モデルも第4章の方法(ルーブリック、人間の判定との一致度の確認、定期的な再検証)で信頼性を確認する必要があります。AI審査は「検知と分類」を担当し、「判定と承認」は根拠を持つ人間が担当するという分業が現実的です。

ブランドの安全と法的な安全の違い

法律を遵守したコンテンツであってもブランドを損なうことがあり、ブランドガイドを守ったコンテンツであっても法律に違反することがあります。「最高の一日」は法的には問題のない修辞ですが、ブランドが誇張を嫌うのであればガイド違反になります。逆に、ブランドのトーンにぴったり合った体験談であっても、架空の人物が語れば不当広告になり得ます。そのため、チェックリストは2つの軸(ブランド基準と法的基準)を別々に設け、各軸の責任者を分けるのが望ましいです。この2つを一人の人間が一度に確認しようとすると、慣れているほうばかりに目が行ってしまいます。

実務の場面

呼吸する壁:承認フローを描き直す

環境配慮型ペイントブランド「呼吸する壁」は、AIを使って月600件の広告素材を作成し始めました。当初はすべての素材をマーケティングチーム長が直接承認していましたが、わずか2か月で待ち行列が300件を超え、チーム長が休暇を取った週に承認なしで掲載された素材の中に「無毒性100%」という文言が紛れ込んでしまいました。会社が保有していたのは、特定の有害物質の放出基準を満たしているという認証だけでした。

新しく設計し直したフローは次のようなものでした。まずブリーフの段階で「使用可能な事実」のリストを根拠資料の担当者が確定させ、指示文にはそのリストに含まれない数値や、「無毒性」、「100%安全」といった絶対的な表現を使用しないよう求める指示を、その理由とともに盛り込みました。生成された素材はAI分類器が事実の主張・価格・人物登場の有無を表示し、高リスク等級は根拠資料担当者と権利・表示担当者を経てチーム長が承認しました。低リスク等級(エモーショナルな文言)はブランド担当者が承認し、チーム長は毎週、低リスク等級のサンプル30件を再確認して分類が正しいかをチェックしました。

採用を見送った選択肢も記録しました。法務チームによる全件審査は処理能力の面から、AI分類器の「安全」判定のみで掲載する案は検知脱落のリスクから却下しました。「無毒性100%」の素材はすべてのチャネルから取り下げて露出期間を記録した上で、同じ表現が入った素材11件を探し出してあわせて修正しました。原因は、ブリーフに「使用可能な事実」のリストがなかったことと、承認の代理者が定められていなかったことであると整理しました。

すくすく:子ども服広告のAIモデル事故

子ども服ブランド「すくすく」は、AI画像生成サービスで子どものモデル写真を作成し、SNS広告を配信しました。広告が出てから3日後、ある育児インフルエンサーが「広告の中の子どもがうちの子とそっくりだ」という投稿を行いました。確認してみたところ、デザイナーが参考画像としてそのインフルエンサーの公開写真を入力し、「この子と似た雰囲気で」と指示した記録が残っていました。

担当者は回収手順に従って動きました。該当する広告をすべてのチャネルから取り下げ、予約されていた投稿も停止しました。露出期間と露出数を記録し、インフルエンサーに連絡して経緯を説明し謝罪しました。子どもは広く知られた人物ではないため、著名人の標識に関する不正競争防止法(韓国)の条項というよりは実在の人物の肖像を無断で使用した問題として扱う必要があり、実在する児童の写真を外部のAIサービスに入力したこと自体が個人情報の処理の問題になり得るという点もあわせて検討しました。原因を調べたところ、チェックリストに「参考画像の出典と権利」という項目がなく、デザイナーは個人の無料プランのアカウントで作業していたため、規約の商用利用条件も確認していませんでした。

再発防止策は3つありました。実在の人物の写真を参考画像として入力することを禁止し、人物が登場するAI素材は権利・表示担当者の確認を必須としました。会社が契約したサービスおよびアカウントのみを使用するようにし、サービスごとの商用利用条件と確認日を記録しました。素材の保管庫には生成サービス、参考資料、作業者をメタデータとして残すようにしました。マーケティングチームは「AI生成画像」の表示を大きく入れて広告を再配信しようと提案しましたが、表示を入れたところで特定の子どもに似ているという問題は解決できないという理由で却下しました。

間違えやすいポイント

  1. 「『ブランドトーンに合わせて』と強く強調すればよい。」 基準と理由、関連性のある多様な例、タグ構造があってこそ、AIが従うことができます。
  2. 「例は最も良いものが1つあれば十分だ。」 例が1つだけでは、望むバリエーションの範囲を示すことが難しく、その構造に過度に引っ張られやすくなります。Claudeの公式ドキュメントでは、関連性のある多様な例を3〜5個提示することを推奨しています。
  3. 「すべての素材を一人の人間がすべて確認すれば安全だ。」 処理能力を超える審査はボトルネックと形式的な合格を招きます。リスク等級別に分類します。
  4. 「AI審査ツールが合格させれば掲載してもよい。」 事実の主張の判定には社内資料が必要であり、検知ツールは見落とす可能性があります。
  5. 「『AI生成』と表示すれば権利問題は解決する。」 表示は著作権、識別標識、規約の問題を解決しません。
  6. 「AIが作成した絵は自分たちのものなのだから、著作権で保護できる。」 著作物とは人間の思想または感情の表現です。人間の創作的寄与を記録しておいてこそ、保護の範囲を定めることができます。
  7. 「問題が生じたら、静かに修正して再投稿すればよい。」 回収、範囲の記録、原因分析、同種事案の点検までが対応です。
  8. 「AIツールのエラーだったのだから、会社の責任ではない。」 不当広告によって損害を与えた事業者は、故意・過失がないことを理由に責任を免れることはできません。

ひと目でわかるまとめ

質問 覚えておくこと
なぜワークフローなのか 責任は会社に。役割・責任・伝達経路を文書化(NIST GOVERN 2.1)
ブランドガイド 具体的な指示 + 理由 + 関連性のある多様な例3〜5個 + タグ構造 + 「すべきこと」中心
ブリーフ 目標・対象、使用可能な事実、禁止表現、必須表示、チャネル・スケジュール、責任者
審査 リスク等級別の配分、作成者と承認者の分離、サンプルによる分類点検
権利 著作物 = 人間の創作(著作権法(韓国)第2条)、著名人標識の無断使用禁止(不正競争防止法(韓国)第2条第1号タ目)、規約確認
リアルタイム 範囲制限 + リアルタイム監視 + 停止装置 + 記録(MANAGE 4.1)
掲載後 何を、誰が、いつ、どのように。タイアップ(協賛)表示の維持確認
回収 停止 → 範囲記録 → 是正 → 原因 → 修正 → 同種事案の点検(MANAGE 4.3、2.3)
保管庫 権利・おすすめの撤回・根拠資料の状態をメタデータとして

公式ドキュメントで確認する

セルフチェック

5-1. ブランドガイドをAI指示文に移す際に、Claude公式ドキュメントが推奨する原則を4つ以上記述してください。

5-2. ブランドガイドの禁止表現「完治」をAI指示文に含める際、禁止のみを記載する方法よりも優れた方法に書き換えてください。

5-3. 月に数百件のAI素材を扱う際、リスク等級を3つに分ける基準を記述し、等級ごとに誰が確認するかを定めてください。

5-4. AIで制作したマスコットを会社の資産として保護しようとする際、作業プロセスにおいて残すべき記録を著作権法における著作物の定義と結びつけて説明してください。

5-5. プロンプトに有名歌手の名前を入れて制作した歌広告の声が、その歌手と非常に似ています。どのような法律条項が問題となり得るかと、会社が取り得る措置を2つ記述してください。

5-6. 事前承認が不可能なリアルタイムAIコンテンツを統制する方法を、NIST AI RMF MANAGE 4.1の要素と結びつけて3つ記述してください。

5-7. (設計)問題となったAI素材の回収手順を6つの段階で記述し、段階ごとに残すべき記録を定めてください。

実習課題

実習

ブランドガイド指示文の作成(40分)

  1. 会社(または架空の)ブランドガイドから、口調のルール5つと禁止表現3つを選ぶ。
  2. ルールごとに理由を1文で添え、禁止表現ごとに代わりに用いる表現を書く。
  3. 承認された文言の中から異なる例を3〜5個選び、タグで区分した指示文を作成する。
  4. 同じ商品で指示文の適用前後の結果をそれぞれ5つずつ作成して比較する。

**完了基準:**指示文に理由・代替表現・多様な例・タグ構造がすべて揃っており、前後比較で禁止表現とトーン違反が減少したことが表で確認できる。

実習

承認フロー図と回収手順の作成(45分)

  1. チームが作成するAI素材を3つのリスク等級に分類する基準表を作成する。
  2. ブリーフから公開後のモニタリングまでの段階を順序通りに描き、段階ごとに責任者と成果物を記述する。
  3. 事故を1件想定し(例:根拠のない数値の露出)、回収手順の6段階を適用して、残すべき記録フォーマットを作成する。

**完了基準:**すべての段階に責任者が定められ、作成者と承認者が分離されており、想定した事故に対して中断から同種点検までの記録フォーマットが記入されている。